登校
「あんたぁ、本当に大丈夫なんね?」
朝7時半、俺の出発時刻だ。常に優しく送り出してくれる婆ちゃんだ。年齢はいくつかは知らないが、近所に住んでいる老人達よりも、よっぽど若く見える。きっと、若い頃は相当な美人だったんじゃないかって思う。
「無理していくなよ、体に毒じゃけぇ。」
居間から、新聞を読んでいるであろう爺ちゃんの声。基本的にそこで俺を送り出す。爺ちゃんもまた、婆ちゃんみたいに若々しい。
「大丈夫だって、3日も休んだんだし。」
俺は、靴を履きながら、元気に見えるように、婆ちゃんに笑って見せた。
正直言って、完璧なコンディションかと聞かれれば、そうではない。まだ、若干頭痛が残っている。
それでも、3日前に比べれば、なんてことはない。なんせ、叫んで、ぶっ倒れて、吐いたんだ。圧倒的にマシである。
「また、頭いとーなったら、保健室行きんさい。あっこの保健室の先生は、理解があるけん、すぐ帰らしてくれるわぁ。」
「はいはい、わかったよ。じゃ、行って来るわ。」
突発的な頭痛で、保健室になんて行きたくないぜ…。そもそも、あんな醜態を晒してしまった学校にも行きたくないが…、ここで学校に行かなくなったら負けだと自分に言い聞かせ、深呼吸をして、玄関を開けようとした瞬間だった。
がらがらがらっ、と俺が開けるよりも先に、玄関は開かれた。
その先に居たのは…山吹だった。俺は、山吹の姿を見た途端、意識を失っていた時に見た夢で見た光景がフラッシュバックした。
-ズキン-
また俺はあの痛みと、目眩に襲われた。
「ひ……な……のっ!」
ひなの?何言ってんだ俺は?
何故か咄嗟的に出てしまった、その言葉の意味がわからなかった。俺はそのまま、下に倒れるように座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?あ……、結城君!」
山吹は、俺の目線に合わせるようにしゃがんだ。
「正秋!大丈夫!?じゃけぇ、無理するなって、ゆーたじゃろーに…。ほんま…。」
婆ちゃんも、慌てて俺の元へ駆け寄ってきた。
「どしたんなー大丈夫かいのー。」
遠くから、爺ちゃんの声が響く。
「だ、大丈夫だよ、ちょっと目眩がしただけだし。なんてことない。」
俺は、そう言って、婆ちゃんに掴まりながら、ゆっくりと立ち上がった。
何なんだ、何故、突然俺は前みたいな体質になってしまったんだ…。なんか原因でもあるのか?
「結城君、無理は良くないですよ。前も、あんなことになってしまったじゃないですか…。明らかに、様子が変でしたから。"もしも"のことがあったらでは、遅いですよ。」
しゃがみこんだまま、俺を見上げる山吹。
「大袈裟なんだよ、お前も、婆ちゃんも!第一、お前には、関係ないだろ。もう、ほっといてくれよ!」
俺は、婆ちゃんを振り払い、山吹を押し退けるように、家から飛び出した。
「正秋!そんな言い方はないじゃろ!心配してくれとんよ!謝りんさい!」
頭が痛い、過去の事も今の事も、含めて全て。