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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
短命の人生行路
7/59

二人の波長

-キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン~-

そのチャイムの音が消えかかると同時に、どたばたどたばたと足音が近付いてくるのが聞こえた。ただでさえ、頭が痛くて、わけわかんなくなって、何故か泣いてるし、それが先生にバレてるってのでもう恥ずかしくて、穴があったら入りたい、というか、是非入らせてください状態で、奴が来るのは非常に不味い!

その足音が保健室の前で止まると、かなりの勢いで、入り口が開かれる。

「先生!ゆ、結城君は!」

案の定、その足音は、俺のファンクラブを勝手に立ち上げた、結城Lovers会長にして、会員番号NO.1の岡田もあ。この学校での鬱陶しさもNO.1だ。あまりの鬱陶しさ故に、俺はこいつの声や、歩幅など、様々な事を覚えてしまった。こいつが付近に来ると野生の勘って奴か、本能か、危機を感じて、俺のセンサーが反応する。

俺が前に保健室に行った時も、このチャイムが消えかけると、足音を響かせて入ってきた。

「あれ、岡田さん、やっぱり来ちゃった…?」

「あんな長い無駄話聞いてられませんよ!それよりも、結城君の方が数億倍大事です!」

「そんな事言って~…また、怒られちゃうよ?あの、工藤先生に…。」

工藤先生、俺が、入学してすぐにお世話になってしまった先生で、この学校のボスと言っても過言ではない。噂では、校長先生も頭が上がらないとか…。あの強面、モデルのようなスラリとした体型、ドスの聞いた声、鍛えられた体、まるで生徒指導になるために生まれたのではないかと、生徒達の間で言われてしまうほどだ。まじで怖い。こいつ、前怒られたのに、まだ懲りないのか…尊敬してしまう。色んな意味で。

「結城君は…奥ですね!」

すたすたすたすたと、足音が近付いてくる。

嫌だ。関わりたくない。そうだ!寝たふりをしよう!流石に、起こしはしないだろう。

俺は、急いで仰向けになり、胸の上で両手を組み、目を瞑った。

「あ~駄目だよ~…多分、結城君、寝てるから~。」

この制止力のない声!ただでさえ、こいつは暴走マシーンなのに!

「ゆ、結城君…!?嗚呼…愛しき人…まるで、天使のよう…一体どうしたって言うの…?何があって、あんなに叫んで、倒れてしまったの…!?まさか、なんかの病気で、重い病にかかってしまったとか…!?」

すらすらと、まるでミュージカルかと思うくらい、大きな声でハキハキと喋りやがる。

その時、手に生暖かい感覚を感じた。こいつ…俺の手に触れやがってるのか!?

「あの時、私かなりびっくりしたのよ!?あの声が、まさか結城君の声だったなんて…。私としたことが、結城君の声すらわからないなんて…会長として恥ずべきだわ。嗚呼、結城君目を覚まして!眠れるプリンスよ…プリンセス達が心配しているの…私は、彼女達に、貴方の無事を報告するためなら、工藤に怒られたって、構わない!全然平気なの!」

あ~この劇場早く終わんね~かなぁ!!!

その時、救いの声が聞こえた。

「おい、岡田、懲りとらんようじゃのぉ~。」

俺は目を瞑っているので、状況は詳しくは分からないが、生徒指導の工藤が来たらしい。今の俺には、神様の声に聞こえる。

「いやっ!来ないで!今、私は神に祈っているのですから!」

「ほ~、その祈りは、話した後にしょーやぁ~、のぉ?」

「嫌です!今でないと、意味がありません!」

この女、強すぎる…。この精神力の強さは、他に生かして欲しいと、心から思う。

「そうか…なら、そっちがその気なら、こっちも手段は選べんのぉ…。」

その渋い声が、徐々に近付いてくると、頭に冷たいものが当てられているのを感じた。

え!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!?何!?!?!?!?

「工藤先生…そこまでして、私の邪魔をしたいのですか!?」

怖い、もう目を開ける勇気がない。

「お前の命より大事なもんは、こっちは知っとる…。もし、岡田、お前が、俺の言うことを聞かんのんじゃったら、こいつは、もう終わりじゃぁ…。残念じゃったの~。こいつも、ついとらん男じゃ。」

嗚呼、何か俺の見えない世界で、とてつもない事が起きている。

「卑怯です!そんなの!」

「さぁ、どうすんじゃ?」

カチャ…っと鳥肌が立つほど、ぞっとする音がする。引き金ってやつですか。

「くっ…分かりました。結城君を守るために!」

その岡田の言葉の後、俺の頭にあった冷たい感覚は消え、二人の足音が遠くなっていくのが聞こえた。

「御手洗先生、失礼しました。行くぞ、岡田。」

がらがらっとドアがゆっくりと閉まった。

終わった…変な劇場がようやく終わった…。俺から緊張の糸がほどけていく。なんなんだよ、あの二人は。

「結城君~、怖かったね~、先生、映画の世界に入っちゃったと思ったよ~。」

やっぱり、俺が起きてたのには気付いてたか。この先生は。

俺は、ゆっくりと身体を起こす。

「一体なんなんすか…。」

「彼らの波長は、合ってるのよ!あの二人、かなりノリノリだったわよ!ミュージカルと任侠のコラボみたいでよかったわ~。うふふ~。」

最高の映画を見れたみたいなノリで言ってるけど、こっちは最悪だよ!

なんで、初日からこんな目に合わなきゃいけないんだよ…。俺は、安心と同時に、何かが体の奥底からこみ上げてくるものを感じた。

「あらら…?顔色悪いって、きゃー!結城君、吐いちゃった!」

なんと、混乱して、めちゃくちゃになってしまった俺は、思わず今日食べたもの全て吐いてしまった。

結局、俺は、学校を早退した。俺の薔薇色高校生活は、泡と消えていくのを身に染みて感じた。


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