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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
狭間で揺れる
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解放された…俺…いや、もう私でいいだろう。演じる必要が無い。

夕日に照らされた道に涙を流しながら私は、大の字になって倒れていた。

この涙の意味が私には分からない。悔しさなのか、苦しさなのか、悲しみなのか、痛みなのか、自分ですら分からない。

なんて、みっともないのだろう?情けない。

この道は住宅が沢山あるにも関わらず人通りが少ないお陰で、醜態を晒さずに済んだ訳だ。

奴は、私の心臓を狙って刺したのだと思った。だが、違ったようだ。実際は、心臓より下の部分。

そこから、大量の血が溢れていた。

苦しみながら…そういう事か。

でも、ここで死んでしまったら…私は雛乃に復讐出来ない。

まだ、生きている。それに、目的の場所がもう少しだと言っていた。なら…頑張れば…。

私は、立ち上がろうと、まず腕を立てて、膝を立てた。

良かった…まだ起き上がれる。

左足を軸に、ゆっくりと右足を起こす。

右足を地面に着けた瞬間に、体全体に鋭い痛みが襲ったが、そんな事はどうでも良い。

立ち上がった時に、力を入れたせいで、血がまた余計に出てしまった。

もう時間が無いんだ。

息が乱れる中、左足、右足、左足、右足…というように確実に進んでいく、思うように歩けないのがとても辛かった。

腹部を押さえながら進んでも、血は止まるわけではない。

かと言って、進むのを止めても血は止まらない。

どっちにしても止まらないのなら、進んでしまえば良い。

進んだその先に、雛乃が居るのなら。

進んで行く内に、足の痛みとか腹部の痛みが無くなった。

痛みを浴びすぎて、痛みに慣れてしまったのだろう。

しかし、それで歩くのが速くなる事は無い。それどころか、進む速さが確実に落ちているのが分かった。

それに、目の前が霞んで来ている。

涙によるものもあったかもしれないが、でも、私には、そこに何があるのかさえ分からなくなった。

限界だった。

亀のような歩みでは、このボロボロの体を残り少ない生命力を使って、雛乃を探し出すのは困難だった。

気付いていた、分かっていた。でも分かりたくなかった。

もう体はどう足掻いても動かない。

絶望と自分の無力さに私は気付かされ、その場に崩れ落ちた。

起き上がる事も、進む事も出来ない。

夕日に照らされているであろうこの道に何も感じ取る事が出来なかった。

私は、再び死という物を近くに感じる事が出来た。

死は昔から、私の直ぐ傍にあった。私の命はとても軽かった。重く扱われている兄上や、両親に憧れたものだ。

死というものは、誰に対しても平等に訪れる。その人間が素晴らしい人格者でも、非道な人間だったとしても。ただ、死の間際の状況が違うのだと思う。誰かに看取られて逝くか、誰にも看取られずに逝くか…最期の言葉を聞いて欲しい人に聞いて貰えるか…。

それは孤独であればある程、嫌われていればいる程、状況は悪いだろう。

現に今の私みたいに。

最も恐れていた事だ。誰にも気付かれずに逝くのが1番嫌だったというのに。

嗚呼…あの時、日向に殺して貰っていれば良かったんだ。

あの瞬間になら、日向には見て貰えていただろうに。

今更、後悔しても無意味だという事くらい分かる。

時間は戻せない。人間には、どうする事も出来ないものだ。

だから、人は後悔する。

そういう意味では、雛乃はとんでもなく恐ろしい力を持っているものだ。

だから、狙われてしまうのだろうな。

でも、時を自由に操れる雛乃も後悔をしていた。きっと、このとてつもない時間を元に戻すには、力が足りないのだろう。なら、力があったら…雛乃は元に戻していたのだろうか?

もう、それも聞く事は出来ない。何も解決する事が出来ぬまま、達成する事が出来ぬまま、私は…死んでしまうのだ。

本当に無能だ…情けない。

ここで私が死んだとしても…結局…。

「結城君!!!!!」

遠くから、息の混じった聞き覚えのある声がした。

私にはその存在を確実に確かめる事はもう出来無い。でも、その声は…雛乃だ。幻聴かもしれない。でも、それでもいい。最期に…夢を見れるだけ…私は幸せだ。

ダッダッダッと道を叩くような音が私の左の耳元に近付いて、止まった。そして、どさっと崩れ落ちるような音がした。

本当に居るのか?そこに雛乃が…。

「貴方ぁ!!!!!どうして!?何でこんな事になっとるん…!?」

生まれて初めて、雛乃のこんな取り乱した声を聞いた。

何も返事をする事が出来ない。

「どして、戻せんのん!?何で!?」

雛乃は、恐らく力を使って、私の身体の時間を戻そうとしているようだが、それが出来ないようだ。

あの息…こういう時の為か。流石と言った所だな。

「嫌じゃ…嫌…私を独りにせんとって…、逝かんで…やっと一緒に居れると思ったのに…こんな…。」

私は左手を動かして、雛乃が居る場所を探した。

「ごめんなさい…あの時…私が…私の…。」

動かせない場所がある、そうか…ここに雛乃が居る。

「結城君…?」

雛乃が私の手をどうしているのかはよく分からない。でも強く固く固定されているようで、指先が動かないという事は…もしかしたら、私の手を握っているのかもしれない。

首を左に向けて、目を開けて、雛乃がいる方を見る。

もう雛乃の姿も、温もりも感じれない。ただ、それが怖い。有る物を失う事がこんなにも恐ろしいとは。

「お…ぐ…ごほっ、げほっ!」

声を出して、伝えようとしたが、何かを吐き出してしまうだけで、何も出来ない。

なら…口だけ動かして言おう。伝わるかは分からないが。

『            』

なるべく、大袈裟に口を動かして、ゆっくりとゆっくりと文字を伝える。

今になって、こんな時になって分かったよ。あの時、雛乃を刺した私を命懸けで助けた理由。そして、雛乃がそれでも、生きる事が出来た理由。大したものだよ…それが雛乃の欲って奴だったのかな。

でも、もう良い。雛乃は雛乃の時間を生きるべきだ。もう十分だ。

だから、逃げて欲しい。絶対に捕まってはいけない。

雛乃の命を他の奴には奪わせたくない。でも、私にはもうどうする事も出来ない。

「ど…し…ぇ!」

伝わった…のか?

でも、雛乃が何と言ったのか、聞き取れなかった。

嗚呼…もう無理か…。

意識を保つのも厳しくなってきた。

死は思っていたより、時間をくれた。

短いようで長いものだ。

それに、とっても穏やかな気分だ。

今までの出来事も全て…一瞬で流れていく。

幸せとは言えない人生だった。

でも、最期に目が覚めたよ…もっと速くもっと早く気付いていれば…嗚呼、その場の憎しみや取り返せない過去にいつまでも支配されてはいけないな…。

最期の夢は…私の永遠の…思い出だ。

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