親子
「なぁ…そろそろ、腕離せよ。」
どれくらい腕を掴まれたまま、歩き続けたのかはよく分からない。
ただ、景色はの大きな建物が並んで居た場所とすっかり変わって住宅らしき建物が沢山並ぶ所までやって来た。少し先には、岩肌が見えてゴツゴツとした山が見える。昔は、この辺の者達は神が宿る霊験あらたかな山とか言ってたか…神など居ないのに。それにしても、あの山の存在感は、とてつも無かったのに、今では、ただの山という感じがする。
「あ、ご、ごめんなさい!」
雛乃はパッと手を離した。
腕を引っ張りながら、力任せに無理矢理に連れて行く…やや強引な所もまた変わってない。
そんな所も含めて、好きだった。
懐かしさと愛しさと苦しさと葛藤で俺がぐちゃぐちゃな事に雛乃は勿論気付いていないだろう。
大事な所でいつも雛乃は鈍いんだ。
この想いを告げる事が出来たら、どれくらい楽になれるだろうか?
俺が楽になったその時、雛乃が代わりに苦しむのかな。
なんて…まるで純粋で綺麗な恋みたいだな。
だけど、残念ながら、それは幻想。
よく見れば、真っ黒だ。色んなものが入り混じりすぎて、もう元には戻せない。
それを受け入れるか、それを放棄するか…それに葛藤している。
「痛いよぉ~~!!」
遠くから、泣き叫ぶ幼い子供の声がした。
雛乃がそれを聞いてからかは、分からないが、立ち止まったため、俺も立ち止まる。
道の先で子供は倒れていた。どうやら、こけてしまったらしい。倒れている子供の少し先に、母親らしき女性がしゃがんで、腕を広げていた。
母親が口を動かして何かを言っていたが、それはここからは聞き取る事は出来なかった。
しかし、その後、子供はゆっくりと立ち上がって、フラフラと腕を広げる母の元へと…。
突如フラッとした。
その間に、走馬灯のように映像が流れた。同じように、腕を広げて微笑む…蛍?
一体…?
間髪入れず、痛い…痛いというより体が痺れるような感覚が俺を襲った。
でも、それもまた一瞬だった。
何だ?それにあの映像…あれは俺の記憶か?…だとしたら、さっきの記憶は…蛍の服装から考えて、俺の記憶の無い間…か?
同じ様な光景を見たから、その抜け落ちた間の物が一時的に…?
「私は突き放し過ぎたのかな…。」
雛乃がそう呟いた。
「雛乃?」
「え?あ、何でもないです!い、行きましょ!」
ぎこちない笑みを浮かべながら、スタスタと前を雛乃は再び歩き出す。
きっと、さっきの雛乃の言葉は過去の俺に対しての事への言葉だろう。突き放す…雛乃にとっては、あのくらいの距離のつもりだったのか?俺には、雛乃が見える位置には居なかったよ。
その道の先を親子が2人、手を繋いで歩いていた。
ああなりたかった、ただそれだけだったのに。
どうしてこうなって…しまったんだろう。




