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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
狭間で揺れる
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揺らぎ

俺は、分からなくなった。

最も憎む相手が、俺の事を自分命よりも大事だと言って、俺の腕を掴んでいる。

では、何故あの時俺の前から逃げた?

1度でもお前を刺したこの俺に普通に何故接する事が出来る?

俺が、全てを忘れていると思っているから?じゃあ、もし今俺が昔の事を聞いたら、雛乃はどうする?

もう雛乃に愛情などは抱けなくなった。あるのは、憎悪それだけだ。

でも、俺はさっき心が揺れた。

自分では気付いていないだけで…いや、そう思い込んでいるだけでまだ心の何処かで想っているのか…?

自分の事すら、もう分からなくなってきた。元々、分からない事だらけだったのに、今の事すら分からなくなって、自分の気持ちすら分からなくなって…とても苛々する。

失っていた時間…その時間の事を知りたい。

俺と雛乃が、今この世界でどう生きていたのか…知りたい。

何故、俺は唐突にこうなってしまったのか…大事な所を何にも聞いてなかった。

聞いたのは、2人の関係と、俺がその間どんな奴で、どんな生活を送っていたか…。

重要な所を1つも聞かなかった。だって、雛乃に希望を与えて深い絶望へと叩き落して消す事しか考えて居なかったから。いざ、こうなって話を聞くと、何故だか心が苦しい。

心の声がこう叫ぶんだ。

『今なら、やり直せる。』

その心の声は、俺の声。揺らぎから生まれた、新たな想い。

濃い憎悪も薄れた愛情も受け入れた、新たな別の形。

自分でもそう考えてしまっているのが謎だ。

でも、その想いを考えたのは俺自身だ。

もし、ここで、俺が今だけを見れたら…その先にあるのはかつて俺が望んだ幸せだろうか?

昔だけ見たら…その先にあるのは、挫折…?

「あ、あのさ…結城君…また、一緒に帰らん?1人だったら、お婆ちゃんやお爺ちゃんに怒られるかもしれないけど、2人で行ったら、そんなに怒られないかも…。2人共すっごく心配しとってね…今日の朝から、ずっと探しに行っとってみたいよ。朝行った時、もうおらんかったけん…でも、もう帰っとるかも!ね!行こう!」

物凄い早口で、大きな声を出す時は、顔を真っ赤にして言う癖…それは相変わらずみたいだ。

「…分かった。」

俺が一緒に暮らしていた人物の事が分かる。そして、その人物が俺の事をどこまで知っているかも分かる。雛乃が打ち解けているという事は、その2人もまた能力を持っているのかもしれない。持っているという事は、あの時、あの集団に属していた者達かもしれない。でも、雛乃を捕らえていないのは何故…?俺と一緒に暮らしていたのは何故?2人もまた、あの集団を裏切ったのか…?だとしたら、消されてもおかしくないだろう…日向や蛍みたいにそういうのを楽しむ奴らだったら…話は別だが。

とにかく今の状況をもっと深く理解する必要があるな…。

「じゃ、じゃあ行きましょうか!」

雛乃は俺の腕を強く掴んだまま、足を踏み出す。

俺は、引っ張られるまま、それに従う。

雛乃の後ろ姿は、華奢で有りながらも、力強さを感じた。

それはきっと…生きてきた人生の長さが…それを与えたのかもしれない。

俺が過ごせない人生を俺が飛び越えたその時を…雛乃は確実にゆっくりと進んで、ここまでやって来たのだから。

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