懸想
「今まで…何処に行っとったんですか…?ぶち…心配したんよ!」
雛乃は涙を浮かべ、嬉しさと驚きが入り混じったような表情を浮かべていた。しかし、その口調からは怒りを感じる事が出来た。
「そんなの俺の勝手だろ。」
今の自分の状況をしっかりと把握していないから、何故雛乃がそんな感情を抱いているのかは俺には分からない。
それにしても、暫く見ない内に、中々こっちの言葉が身についてるな…といっても、若干ぎこちないけど。
「お婆ちゃん達から、あの後聞いたんです。出て行ったって…。それで、2人共必死になって探してて…それでも結城君は見つからんかった。私も学校で頑張って色んな人に聞いたりしたけど…全然情報が無かった…他にも色んな人が探してくれたけど…何週間も経っても見つからんくて…心が張り裂けそうじゃったのに…それなのに、どうして結城君は、そんなに平然としとれるんですか!?何で…?」
人目を憚らず…と言っても、元々俺の周りには人が集まってて、まるでこれじゃあ、見世物みたいじゃないか。
「はぁ…ごちゃごちゃ煩いんだよ。雛乃には関係ないだろ。」
正直、どうでも良い。誰が心配していようが、その殆どが今の俺の知らない人達だ。その他大勢の心配なんて小さな物だ。
「…結城君は今までの時間…何とも思っとらんかったんですか?だから、そんなに面倒臭そうな態度なんですか…?」
急に、悲しげな声になった。
何を思ってたって…雛乃に会いたいとしか思って無かったよ。なんて言ったら…また逃げられてしまうかもしれない…。
記憶の無い間、俺には家族が居た事、学校に通っていた事…それは聞いたから知っている。でも、家を飛び出していたとは…それで、数週間も姿を見ないから、心配したって事か…。
そこまで怒る事なのか?面倒だが、仕方無い。ここは、適当に解決しよう。シーン563で同じ感じのがあった。それをやってみよう。
俺は、ゆっくりと腰を上げて、雛乃の瞳をじっと見た。
「なぁ…どうして、そこまで俺の事を気にかける?雛乃は、ただのクラスメイトじゃないか。確かに、近所には住んでいるかもしれないが…。」
まさか、あのよく分からない練習が、こんな所で役に立つとは…。
「ただの…クラスメイト…近所…そうよね…そうだよね…。」
雛乃は自分の唇を強く噛んだ。
まるで台本通りの世界みたいだ…まんま同じだ。
ただのクラスメイト…それがどういう意味なのかは正直分かってない。でも、この表情からすると相当ショックな言葉なんだろうか?
「だから…放っておいてくれ、じゃあな。」
俺は、その練習のままに雛乃の横を通って、どこかに行く素振りを見せないといけない。でも、その前に、雛乃が…。
「待って!行かんといて!」
俺の腕を掴む。行動も、言動も、今まで狂いが無い。
「離せよ。」
俺が抵抗して、その手を振り払っても、雛乃はまた、俺の腕を掴む。
「ただのクラスメイト…近所の人…それ以上に…私にとって…結城君は…ずっと貴方は…命よりも大切な人なの…。これだけは…嘘じゃないから…。」
練習通りでない答え…雛乃からの言葉に、俺は動揺した。
つまり…雛乃は俺の事を変わらずに…?でも、あの時、俺の事を嫌いだから俺の元を去ったのでは無かったのか?分からない…分からない…雛乃の考えている事が本当に分からない。
「ごめんね…変な事言って。」
「いや…別に。」
雛乃の顔は真っ赤だった。
外は夕日が沈んで、少し寒いのに、俺はとても熱かった。




