再会
『大和は無事か!?』
『ええ、大事に至ってはないわ。少し、体が痛いようだけど。』
『そうか…大事な息子に何かあっては困るからな…。』
父上と母上の会話が何度も何度も頭の中で聞こえる。
どうしよう…もし僕がやったって知られたら…僕は殺されちゃうの?嫌だ、死にたくないよ。あの時、兄上は僕が後ろに居たのを見てない。だから、兄上にバレるって事はないとは思うけど…他の誰かが見ていたら…どうしよう。僕は悪者だ…どうしてあんな事しちゃったんだろう?突発的にやっちゃった…。お願い、誰も見ていませんように…。
色褪せた畳の上で、小刻みに体が勝手に震える。
すると、障子の向こうから、足音が聞こえた。
―ドッドッドッ―
その足音は確実に僕の方へと近付いている。
どうしよう…どうしよう…お願い、こっちに来ないで。
だが、無慈悲にもその足音は、僕の居る部屋の前で止まった。
嫌だ…嫌だ…ごめんなさい…。
そして、ゆっくりと、障子は開かれた。
目の前には、父上でもなければ、母上でもない。父上が信頼する右腕…日向が居た。
僕を見下ろしながら、ゆっくりと口角を上げた。
『みぃつけた~。』
その手には、刀が握られていた。血で錆びたボロボロの刀。
逃げ出そうにも逃げ出せない。腰が抜けて動けない。
『正秋君、君は沢山悪い事をしたね…触れてはいけない相手に触れて、その相手を怪我させた…。これは、駄目だよね。お父上の大切な大切な子供を傷つけた…あれれ?そういえば、君も子供だったっけ?ま、どっちでもいいかな。居ても居なくても、何も変わらない…だったら、僕がここで手を下しても…問題無いかな?』
1歩ずつ確実にこちらへと歩みを進める。
『僕も初めて気付いたよ…君って生きてたんだ…っていうか君が正秋君だったんだって…、いつも惨めな格好で、とてもとてもお殿様のご子息だとは思わなかったなぁ~。でも、君のあの行動…それに、よーく見たら、本当に似てる…血は争えないなぁ!』
僕の目の前に来ると、ゆっくりと剣を構える。
『君は、本当に哀れで滑稽で…見てるだけでワクワクする。』
刀が僕へと落ちて来る。
『殺さないで!!!!何でも言う事聞くから…お願い…。』
『何でも?』
僕は、生きていた。現にこうやって会話しているのだから。刀は首の横スレスレで止まっている。
『はい…。』
僕のその返事を聞くと、日向がゆっくりと僕の目線に合わせるように、しゃがんだ。
『いいよ。』
体が軽くなった。まるで、体全体にあった錘が全て消えさったようだ。
『ほんと!?僕のした事も言わない…?』
『何でもしてくれるならね。本当に何でもしてくれるのかな?』
『何でもする…何でもするから…。』
『悪い子だ。』
そう言うと、日向は僕の頭に手を置いた。
温かかった。初めて人の温もりを感じた。初めて、僕の存在を認めてくれる人が居た。
『なら、強くなってもらわないと…と言っても、君なんかに稽古をつけたい人なんて居ないだろうから…そうだなぁ~丑三つ時にでも、稽古つけてあげるよ!これでまるで駄目だったら、すぐにお父上にご報告しちゃうから…死ぬ気でやれよ。じゃあね~。』
フフッと不気味に笑いながら、僕の頭から手を離して、ゆっくりと部屋から出て行った。もう、こちらに振り向きもしなかった。
***
「結城君!結城君!」
懐かしいその声に、俺は目を覚ました。
どうやら、夢だったようだ。まぁ、そりゃそうだ。夢の中では夢だと気付けないのがもどかしい。
「ん…?」
目の前には、雛乃…雛乃が居た。
変わらない。あの時と、ただ来ている服と髪型が変わっているだけ。
雛乃には、俺はどう見えているのかな?変わらない?それとも変わってしまった?雛乃の記憶の中の最近の俺と同じように見えているのかな?
「久しぶり。」
変わらないように、素っ気無く、でも、素直な本当の俺の気持ちを込めて、そう答えた。




