行動はお早めに。
どれくらいの時間が経ったのかは、正直よくわからないが、クラスメイト達の声で、山吹の高速ページめくりの音が、聞こえにくくなってきているので、それなりに経ったんだろうなぁ、と思った。
俺が、時間をちゃんと確認しようと、顔を上げた時だった。
周りの沢山の女子が俺を囲んでいた。いつの間に!?
「結城君、おはよー!起きてたんだ!てか、また同じクラスじゃね!よろしく~!」
嘘だろ!?こいつが、またいるのか!?いつも、絶対に金曜日に、嫌がらせレベルのラブレターを送ってくる安藤優、バスケ部で典型的な活発少女という感じだ。こいつが、また同じクラスなのか!?厄介だ…。や、どうせ違うクラスになっても、やってくるだろうが…。
「初めてこんなに近くで見た~!イケメンじゃああ!ふぉおお!!!!!」
…誰だ?
「ちーちゃんと優だけずるいわ~、私も顔を拝ませてくれ~。」
そう言って、俺の前に居たちーちゃんという女子と、安藤の間に割って入る。
「真正面はいいな~!うんうん!」
眼鏡を掛けた優等生っぽいけど、多分性格は、かなり弾けてるんだろう。
他にも何人か居たが、こいつら以外が話しかけてくるような素振りはなかった。
多分、この3人がクラスのトップ的な位置なんだろうな~。女子に死ぬほど囲まれてわかったが、こういう場合の女子は、どれだけぐいぐい行ったとしても、誰にも咎められないようなオーラをかもし出してないと無理。広島に来て、1年ちょいで、そういう推理に至った。
「で?なんか俺に用でも?なんで俺を囲ってんの?煩いんだけど。どっか散れよ。」
最大限に、うざく言った。言ったのに。
「散れと言われて、散る花はありません!」
「そうそう!」
「あ、そろそろ、始業式始まるからさ~。結城君も、早めに移動よろしく!皆も急いでね~!行こ!」
優等生風女子は、くいっと眼鏡を上げた。こいつは、これがメインだっただろ。絶対。
それを聞いて、女子達は、「本当だ!」「やば!」と色々会話をしながら、すたこらさっさと、体育館へと向かっていく。
そういえば、時間を見るのを忘れていた。始業式が始まる10分前。いつも、先生が10分前行動~!と煩く言う。俺には中々身に付かない。時間には、どうしてもルーズになってしまう。
そろそろ行くねぇと厄介だなと思い、俺は、ゆっくり席を立った。
俺は、ちらっと山吹を見た。まだ、本を読んでいる。大丈夫か、こいつ。あれか、自分の世界に入ると周りが見えにくくなるタイプなのか?
「おお、あと俺らだけだったんじゃん、危ね!最後の人、鍵閉めよろしくー!」
坊主の男子が、俺は絶対鍵を閉めたくないと言わんばかりに、颯爽と教室を飛び出した。
ったく、閉めるだけだろ?何かめんどくさいことでもあるのか?
山吹も相変わらずだし…。仕方ねぇ…。
「おい、山吹、鍵閉めるから。さっさと体育館行け。」
すると、山吹は、ゆっくりとこちらを向いた。
「大丈夫だよ。そんなに急がなくても。時間はまだ…、進まないから。」
「は?」
山吹の意味不明な言葉に、は?としか言えなかった。
時間はまだ進まない?なに言ってんだ、進むだろ。進んでるから、皆急いで体育館にGOしたんじゃねぇのか。てか、こんなにのんびりしてたら時間が…。
って、まだ10分前か?あれ…?少なくとも、3分位は経ったと思ったんだが…。
俺の勘違い?頭が混乱してきた。
「…冗談だよ。ごめんね、私が鍵を閉めるから、先に体育館に行ってて…。」
髪の先をくるくる弄りながら言う。
「早くこいよ。」
「うん。」
なんで、このタイミングで変な冗談ぶっこんでくるんだ?ま、急ぐか。
俺が、教室を出て走り出そうとしたタイミングで、体がふわっとなる感覚に襲われた。
そして、どう説明したらいいのか、わからないが、気付いたら俺は、自分のクラスの列に並んでいた。