旅立ち
「シーン23!愛する雛乃ちゃんとの再会のシーン!アクション!」
目の前に居るのは、雛乃…目つきの悪い怖い女では無い…蛍では無くて、雛乃…そう雛乃。
「久しぶり、私だよ。」
「カアアアアアアット!!!」
折りたたみ式…って言ってたか?それに座って、足を組み、サングラスと呼ばれるものをかけて、羽織るものを独特の着方をして、黄色い物を持って色々凄い。
先程から頻繁によく飛ぶ黄色い物が私達の間を通り抜ける。
「久しぶり、私だよぉ!?誰だよ!さっきから散々言ってるよね!?君は、一人称『私』じゃなくて『俺』だから!そういう関連のNG12回目だよ!!いい加減覚えないとさ…はい、見て目の前の女性の殺気~見える?」
私…じゃなくて俺がNGを重ねる度に、間違いなく蛍から放たれる殺気が強くなっている。
「しかも、ちょっと前の君なら、多分、無言で、心の中でごちゃごちゃ言ってると思うよ、ね?蛍!」
「…心の中だけは弾けて、口には出さない。口に出す時はぁ、最低限。でもぉ、あの子と話す時は、ちょっと楽しそう。そういうの微塵も感じないんだけどぉ?そういう所が駄目だって言ってるのぉ!!!思い込みくらいちゃちゃっとやれやぁ!!!」
口をかなり荒げる。こりゃ、参ったな。雛乃はもう少し御淑やかだし…わ…俺が頑張らないと。
「あらら…お口が悪いなぁ~、全く。はい、じゃあもう1回!アクション!」
「…よお。」
ちょっとだけ口角を上げてみた。空白の時間、どうやらかなり性格とか、なんやらが変わっていたらしい。雛乃は…そっちの方が好みだったのだろうか?
「カット!素晴らしい!気だるげな感じ!でも、内心嬉しそうな感じ!滲んでていいねぇ!よし、次!」
どうやら、これで満足だったらしい。
日向は、可愛らしい…何だろう?本?を捲りながら、次のシーンを決める。
「じゃあ、シーン24!2人で景色を見るシーン!」
「あの…。」
「え、何?」
「そういうシーンって…要ります?それ、何が書いてあるんですか?」
「君を一方的に愛し続けて、観察し続けて、もはやストーカーの域に居て、もしかしたら、君なんかより君をよく知ってる女性が書いてた手帳の中の妄想だよ!君についての情報だけじゃなくて、そういった事も書いてあってね~、や~素晴らしい。君は、罪な男だよ!彼女は、上手だね!脚本家になれそうだ!君の考え方とか口調とか、完璧だよ!」
ぞわっ…と鳥肌が立った。俺より、俺の事を知ってるなんて…おぞまし過ぎる。
「ははは…はは…。」
「引いてるね!同族嫌悪って奴かな?まぁ、それは置いといて!やるよ!」
「あ、はい。」
「アクション!」
「…綺麗だな。」
「カット!最高だよ!台詞に狂いが無い!もはや、君が台本通りの役者に見えちゃうね!」
「…そう…ですか。」
一体どんな女性だったんだろうか…想像したくもないけど。
「よし、次々行くよ!」
***
「カット!!!!」
シーン1432で終わり…嗚呼…やっと終わった…とんでもない女だな…。どうしたら、こんなにも…妄想を…。
俺と蛍はずっと立ちっぱなしでやり続けていたためか、その日向の声でその場に倒れこんでしまった。
「お疲れ~、正秋君と、ついでに蛍もよく頑張った!先生は安心して、正秋君を送り出せる!今までの事を思うと感動して涙が止まらないよ…成長したんだね…ぐすっ…。」
この人の演技力は素晴らしいと思う。
「ついでって…ちっ…一応言うけど、目的忘れてないでしょうねぇ…?」
「忘れてなんかないよ…雛乃を消せって事。後一つ聞きたいけど、それさえやれば…後は俺の勝手?」
「まぁ…そうだね。でも、あっち側さんは絶対に、彼女を狙いに来るよ。ま、すぐに分かる。あちらさんに捕まったら、もう君マジで無能だから。本当に。」
無能ね…俺は無能扱いはもう勘弁だな。
「戦おうだなんて、しないでねぇ?さっき散々シーンの練習でしたと思うけどぉ…。一目散にあの子を連れて逃げる…それがちょっと前の貴方の常套手段。戦う姿勢とか…必要無いからぁ。」
「…それは、中々ハードだなぁ…。」
「だから、その時は2人仲良くとっとと死になさぁい?あの子だけは、あいつらに渡さないでぇ…絶対に。」
命に代えても雛乃を守るか、2人仲良く逝くか…勿論後者だけど。
「わかってる。じゃあ、行きますね。あ、服変えてもらってありがとうございました。風呂も気持ち良かったし、進化してて、平成?でしたっけ、時が経つのは早いですね。中々、過ごしやすいみたいです。最近の用語とか…俺の事とか…色々教えてもらって助かりました。では、お疲れ様でした。」
俺は、2人に深くお辞儀をした後、真っ白なドアを横にスライドさせた。
雛乃…早く君に会いたいな…。
***
「これが涙の卒業式…。」
日向は、ハンカチを取り出して、おいおいと涙を流す。
「大袈裟な…はぁ…疲れた。」
蛍は、少しだけ愁いを帯びた表情で、天井を見た。
「ねぇ…良いの?」
「は?」
「いとしの正秋君が、もしかしたら…というか高確率でこの世から消えちゃうかもしれないのに…最期かもよ?見守ってあげないの?フフッ。」
「別に…どうでも…所詮は、駒なんですからぁ…。」
「へ~…焼け跡から、彼の死体が見つから無かった時…すっごく泣いてたのに…、で、彼が生きてたと分かった瞬間からまた君が輝き始めた…愛を感じるね。」
「…馬鹿にするのも大概にしてくれませんかぁ?」
蛍は、思いっきり日向の足を踏みつけた。
「あー痛い。痛い。ごめんって。ごめん。」
「むかつく…。」
歯軋りの音が響く。
「君って強がりだもんね…きっと、正秋君と久々に会った時も…色々キツく言ったんだろうなぁ、彼鈍いから…怖い女の人程度にしか思わなかっただろうけどね…、でも、君も少し鈍い。それに加えて、その違和感に気付いても、そんなに気にしないってのが問題なのかなぁ…。折角、心が見えるのに…勿体無いよ?」
日向は、満面の笑みで言う。
「私は…ボス…貴方の心が見えるようになったら――」
「僕を殺す?フフッ…。」
そう言って、日向は蛍に優しく口付けをした。
しかし、蛍は、すぐに押し戻す。
「おっとっと…でも…それは無理かな。もし能力者が戦った時、勝つのは能力が強い方だ…。200年だっけ?一緒に居るけど、未だに僕の心を見れない時点で…君の負けだ。というか、薄々分かってるだろう?その能力の強さは生まれつきで決まるもの…後からの修練とかでもどうにもならない。中々君もしぶといね…ほんと。」
「煩い…うざい…。」
「でも、そんな所も含めて君の魅力だよ…だから、僕は君の傍に居るし、君は僕の傍に居るべきだ。つまらない世界を一緒に楽しくしよう…予定調和のあいつらの計画をぶっ壊そう?僕らの生きる世界は…めちゃくちゃであるべきだ。昔は、そうだったのに、あいつの嘘のせいで…何もかも隠された。でも、あいつももうすぐ終わり…時間を戻させはしない…嘘はいつかバレるべきだ。だって嘘は…悪い事でしょ?」
真っ白な世界、真っ黒な2人。2人の関係は、強くも儚い。




