最高の出会いは運の尽き
「…私に殺せと…?」
「その通りだよ!流石だね!君の空白の時間の間にもう色んな事があり過ぎてね…ま、この辺は特に君に言う必要も無いし、知っちゃう時に知っちゃってくれたらいいからさ。」
空白の時間って何だ…その空白の時間は一体どれ程の時だった…?その間に、私の身の回りに何があった?
「あ~ん、もぉ…そんなに色んな事考えなくて良いからさぁ…私らの言う通りにしてよぉ…言う通りにするだけで良いだからぁ…。」
「正秋君…ずーーーっと前言ったよね?何でも言う事を聞くから…僕のした事を言わないでって…とても怯えた顔で…フフッ…忘れちゃった?恩を仇で返しちゃう系?」
忘れる筈が無い。幼き日の記憶、私が最初に犯した罪。階段を下りようとする兄を後ろから思いっきり押した。押したその瞬間は、罪の意識など無かった。でも、兄が落ちて、気を失ってしまった時、自分のやった行為のおぞましさを感じた。それを見ていたのが…当時、大臣職をしていた日向だった。今思えば、あれが運の尽きだったのかもしれない。ただ怖くて、苦しくて、バレたら…誰にも看取られず…無慈悲に殺されると思った。だから、何でもするから言わないでと言ってしまったんだ。
握られた弱みは、いつの間にか私を強くする糧にもなった。言われたくなければ、もっと強くなれ、もっと多くの血を見ろと言われたからだ。ただ、それに従った。
でも、弱みは弱みでしか無い。日向は、私を強くして、何がしたかったのか…今だにはっきりとした答えは見えない。
ただ一つ言うならば…日向は私をこっちの世界の住人にしたかった、それだけなのかもしれない。実際、私は今も一度味わってしまった欲望の叶った瞬間の喜びを…今だに忘れる事が出来ない。
とっくに、弱みの効力は無くなっているのに…その弱みを自ら捨てたのは日向達なのに…、恩を仇で返しても、私にとっては、何も意味など無い筈なのに…今この機会を失う事をとてつもなく…恐れている自分も居る。
彼らとの出会いは運の尽きでもあり、最高の出会いでもあった。だって…私の存在を生まれて初めて認めてくれたのは、彼らだ…。そして、願いを叶えてくれた。そう幸せを与えてくれた。
「フフッ、ハハ…まさか…そんな事はしませんよ…。人生最初に私の存在をしっかりと認めてくれた人達ですから…チャンス…でしたっけ?それを再び私に与えてくれるなんて…随分と丸くなりましたね。」
「そうねぇ…、それくらい私達は、貴方を必要としている…貴方は私達に必要とされてるのぉ…この必要とされることの価値の尊さ…貴方になら分かるでしょぉ?」
そう言って、蛍は私の頬に優しく触れる。
「ほんと、出会いの順番って大事だねぇ…。出会いには意味がある。出会いは人に影響を齎す。その人とその人の出会いって…確率で表すと、とんでもない数字になる。嗚呼…出会いは全て奇跡で出来ている…。」
「キモイですよぉ?ボス。」
「もっとマイルドに言ってくれない?というか、そういうの口に出して言っちゃいけないんだ~!」
「汚い。」
「うわあああああん!!!酷い!酷いよ!どう思う正秋君!?上司なんだよ、僕!」
この辺のやり取りも、そんなに変わってなくて…懐かしい気持ちになった。懐かしく思うってことは、私の中で、それなりに時間が流れたって事なんだろうか?
「元々二人はそういう関係でしょう?今更、どうにもなりませんよ。」
「そんな…ボス…ショック…ベリーベリーショック。」
「はいは~い、そんな事どーでも良いからぁ…まずは、彼に演技力と語学力を身につけさせないと、どうにも、なりませんからぁ~、あの子は、彼の事に関しては察しが良いみたいなのでぇ。」
蛍は不気味な笑みを浮かべた。と、言っても、これが普段の笑顔なんだが。
「あ、そうだね~、そういえば、助手のシオン君は?」
シオン?そんな奴居たかな…?私の記憶の中には居ない。と言う事は、後からの人間だろうか。
「知りませ~ん。ま、どっか居ますよぉ…。」
「ふーん…。」
「じゃあ、さっさとやるわよぉ…。」
「よし!びしばしやっちゃうからね…僕は、こういう時は鬼になるから!」
ははは…全く状況についていけない…。先生、理解が及びませんと言えば流れに乗った事にはなるかな…。
ただ、一つ言えるのは、鬼のような時間の始まりだった事は確かだという事だ。




