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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
かつて居たその世界
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チャンス

思い出されるのは、多くの人が流した血と涙。でも、先程、私は血も涙も無い世界だと言った。

しかし、私の知るこの世界は、最も血と涙が流れている。だが、その血と涙を見ても、その意味を考える必要性を失った世界、血と涙の価値を失った世界なのだと考えている。

実際、私は自分に付着する何者かの血を見ても、何とも思わない。涙すら出ない。罪悪感が自然と沸く事も無い。

それが当たり前だったからだ。周囲の人…親を含めた多くの大人が皆、自分の欲望の通りにならなければ、邪魔だったら、必要だと感じなくなれば、平気で簡単に人を殺めていた。

でも、1人、その当たり前を壊す人物…雛乃が現れた。彼女は、私に生きる希望と喜び、そして、ささやかな夢のような幸せを与えてくれた。

例えそれが、政略的な物だったとしても、私はそれに縋った。

だからこそ、雛乃が私の元から去ったのが許せなかった。

雛乃は、私しか見ていなかったのだろうと思う。周囲の状況を考える程…異様な光景である私の日常を感じ取る事が出来なかったのは、その為だ。

確かに私は、雛乃と離れるまでは、否定された事など無かった。それは、そもそも誰も私に興味を持っていなかったからだ。目に見えぬ存在同然。私など居ても居なくても、どっちでも良いから、精々我々の邪魔をするなよと、そんな扱いだった。

幼い頃は、努力すれば認めてもらえると、必死に鍛錬したものだ…馬鹿馬鹿しい。

必要も無ければ邪魔でしかない私を何故、そのまま城に置いておいたのか…恐らく駒としてなら使えるとでも思われたのだろう。長男以外の扱いなど…そんなものだ。

兄は、大した努力もせず、頂点に立とうとした。もし、兄が実力があれば、私は諦めていたかもしれない。

でも、諦めなど不可能だった。私にも関心があれば…関心さえあれば…その関心を奪ったのは…誰だ?私に関心を向けようともしなかった者達は誰だ?何故、そんな奴らが、民から崇められ、信じられ、尊敬される?何故期待する?そんな感情が私を支配した。

それと同時期だっただろうか、私の弱みを握った者達との交流が著しくなり始めたのは。

そして、その弱みを握った者の1人…蛍は、私に体を貸せと、殺すのは私だから、何も怯える事は無いと言い張った。まるで、私の心の中を全て知ってるかのように言ったのだ。そして、本当に幸せになれるとも言った。

そして、もう1人…日向も言った。欲望のままに忠実に…強く願うだけで良いと、そうすれば、君の願いもかなうだろうとも言った。

だから、強く願った。

人からの関心を得たい。認められたい。そして、父達が得続けた信頼、尊敬…それを受け継ぐのは私でありたいと。

そこから、全てを奪い、壊すのは一瞬だった。

気付けば、目の前には、虫螻達の流す汚い血…。殺した記憶など私には無い。そう、殺したのは、私では無く、元より暗殺を企んでいた者の誰か。

私は、序列に従い、その国を統べる者となって、関心、信頼、尊敬…私の望む全てを得た。

しかし、それを良く思わない者が居た。雛乃の両親だ。奴らは、私が殺したのだと根拠も無く言い続け、挙句の果てには、そんな私を信頼出来ない、娘をこんな奴の元へは置いて入られないと、雛乃を私から奪おうとした。だから、それ相応の報いを受けさせた。そうしたら、雛乃は…。

許せなかった。

『私は、恐らく貴方の人生で初めて、貴方を否定する存在かもしれません。貴方は間違っています。今の貴方に私は、嫁ぎたくありません!』

少し前に、雛乃の両親から否定されたばかりだったのに。彼女は結局肝心な所はいつも何も見ていない。

私は、泣き崩れた。私はただ…一緒に居たいそれだけだったのに。

そして、悲しみは憎しみへと変わった。

そこに再び、蛍が現れた。今度は、一人で。

そいつは言った。

『最期に願い叶えてあげるわぁ…、あんたにはもう必要ないでしょぉ?もう十分楽しんだでしょぉ?可哀想ねぇ…どこまで行っても利用されてぇ…だから、あ、これは私の優しさ…最期は自分の手でやり遂げなさいよぉ?戦火のどさくさに紛れて、心中くらい出来るわよぉ。明日…彼女が帰る日なんでしょぉ?永遠に帰れなくしてあげれるから。大丈夫、貴方の罪ごと燃やしてあげるからぁ…。』

そう言って、きつく強く抱きしめた。

逃げるなと言わんばかりに。

そして翌日、反乱が確かに起きた。城は戦火に包まれた。そして、自らの意志で雛乃を刺した。

ここまでは私の願い通りだった。

でも、雛乃は…少なくなった命の灯火を使って、私を遠い未来へと追いやったのだ。

それが、幸せだと、一方的に決め付けて。私を独りにして。

「そんなに過去の辛い事ばっかり思い出さないでぇ?確かに、貴方はチャンスを無駄にしたわ。そして、どちらの死の願いも叶わなかった…でも、それは貴方が本質的な無能なだけだからぁ…ねぇ?」

蛍の言葉に私は引っかかった。

「どちらの死も…?まさか…雛乃は…そんな筈は無いっ!」

だって雛乃は…明らかに自らの生命力を使って…!

日向が大笑いしながら答えた。

「欲ってさぁ…あははっ…どこまでも恐ろしいものだよ…ふふっ…結局また彼女は狙われてる…自称正義の集団にさぁ、あはっ…でも厄介なんだよねぇ、それ。」

「だから、もう1回チャンスを与えてあげるわぁ…あの子の中で貴方は、普通の青年になってるから…昔の貴方だとは思っても無いから…愛する貴方が現れれば…きっと彼女は能力を使わない…時間を戻したりなんかしない…その時間をただ純粋に楽しむ…どういう意味か…分かるわよねぇ?」

混乱し頭の中が乱れている私に、その言葉は告げられた。

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