さよなら、中途半端
透き通った白い髪が、まるで最初からその色だったかのように、真っ赤に染まっていて、大人っぽくて綺麗に整っていたその顔は、苦しみに歪んだ顔で…体の色だけが真っ青で…もうお姉さんはこの世には居ないのだと…いや、居れなくさせてしまった。この俺が。
叫び声を上げる事すら出来なくて、今まで葛藤していたものが全て吹き飛んで、ただそこで全ての現実を受け入れる事しか出来なかった。
俺が、お姉さんを殺した。その事実だけが、俺に深く突き刺さる。
命の儚さと重さの意味を…理解していた筈の俺が…こんなにも簡単に人を…殺めてしまったのか?
俺は、実は、何も分かって居なかったんじゃないのか?だから、無意識で…。
無意識で、こんな事をやってしまうのか?俺は、どれだけおかしくなっているんだ?
「貴方に一つ素敵な事を教えてあげる…きっと、貴方の心は軽くなるわぁ…。」
女は、俺を突然抱きしめた。
「んっ…!?」
あまりにも、突発的過ぎて、固まってしまった。
「意地悪してごめんねぇ…?あはっ…思い出してみてぇ…ちょっと前、言ったよねぇ…貴方の体を貸してって…殺すのは貴方じゃなくて、私…。だから…何にも怯えなくて良いのぉ…心を私に委ねて…私を信じて…そうすれば…幸せになれる…ねぇ?」
その言葉は何故か、俺に安心感を与えた。
-ズキン-
共に、激しい頭痛も与える。
『殺すのは貴方じゃない…私、だから、何も怯えなくて良いのぉ…心を私に委ねて…そうすれば…幸せになれるわぁ…絶対に。』
同じ様に俺を抱きしめて、同じような言葉を囁く…。
「ぐっ…。」
俺は、体を動かしたかったが、女があまりにも強く抱きしめていたため、それは出来なかった。
そして、あの感覚が俺を飲み込む。
「やぁっと…思い出してくれるぅ…?ねぇ…今、どんな感覚なのぉ…?」
「意識が…ふわ…ふ…わする…。ぐっ…頭が…。」
「あはっ…ボスの読み通りなら…!そのふわふわした感覚を…自分の外に出すようなつもりでさぁ…、やってみてよぉ…?」
自分の外に出す…?何を言ってる?そんな事を言われても、やり方が分からない。
駄目だ…、意識が保てなくなりそうだ…、目の前がぼやけている。
「体に力を入れてぇ…自分につっかえているものを出すような感覚でぇ…んー…とにかく力を入れてぇ…、思いっきり、意識を遠くに飛ばすような感覚…こう言えば分かる?貴方はぁ…今までぇ…それに飲み込まれて、中途半端になってたり…、耐え切れなくて倒れたり…結局大事な所までは行き着かないでいたの…それで、それは記憶のつっかえ的なものがある…だから、それを吹っ飛ばす…もうさぁ…手順とか考えてらんないのよぇ…ボスも、私も…待ちきれないの。」
「ははっ…やってやる。」
俺のその言葉を聞くと、女は、ふっと口角を上げて、喜んでいるように見えた。そして、俺から少し距離を取って、見守る。
何を喜んでいるんだ?何でこんなに俺は赤い?まぁ、いい、この中途半端なものを捨て去れるなら…。
俺は、目を硬く瞑って、意識を力を入れる事に集中した。
身体の隅々まで、抜かりなく…。身体が小刻みに震えている、それは力を入れているからだ。
やがて、身体が熱くなって、骨がポキポキと鳴って、やがてその音も聞こえなくなって、俺の中からは世界が無音になった。奇妙な感覚がぎっしりと体の中で、行き場を失って、早く此処から出たいと暴れているのを感じる。
そうか…これでいい。中途半端は、もう終わりだ。
俺は、一気に身体の力を緩める。
その俺の緩みと同時に、その感覚が飛び出していく、今まで俺の中の記憶のつっかえが…それと一緒に無くなるのも感じた。




