ようこそ
「あれ…?」
俺は、ぼーっとしていたのか何なのか、そこに突っ立っていた。でも、さっきまで居た位置とは全然違う場所に居る。それに、なんだか、息が切れて…少し体が重い。
「はあぁぁぁぁぁあ~…久しぶりだったし…、まだまだだったし…相手の無駄に多い生命力のせいで疲れちゃったぁ…。」
女は、先程の岩の前に、よりかかりながら、疲労感いっぱいの表情を浮かべていた。
「おい…お前…。」
俺は、女に近付いて、ここで待ち合わせた真意を聞こうとした。
女はちらりとこちらを見て、顔を歪ませる。
「ん?どうしたのかなぁ?そんなに朱に染まちゃってさぁ…?昔を思い出して美麗ねぇ…あはははっ…。」
「は…?」
俺は、その言葉が理解出来なかった。
「手を見てぇ…?」
その言葉に従って、すっと両手を目の前に持っていく。
俺の手には、赤く…赤黒く染まった刀と手があった。
それだけじゃない、腕も、そして足も…。
「な…んだよ…これ…。」
手が震える。そして、刀が自然と落ちる。
俺が…俺が?誰を?
此処に居たのは…俺とこいつと…あの姉弟…。
今俺が居るのは…気が狂うか狂わないかの境界線。
「嘘だ…嘘だ…違う、違う、俺じゃない。俺がやった?違う、違う…。」
俺は、頭を抱えながら、その場にしゃがみ込んだ。今俺の目に見えているのは、血に塗れた自分の足と、地面に垂れた血…。
「違わないわぁ…。じゃあ、今貴方を赤く染めているものはなぁに?それは…誰の血かしらぁ?」
この血は…。せめて…あの二人じゃなければ…。
姉弟の楽しそうな笑顔が浮かぶ。
「言えないのねぇ?言いたくないのかしらぁ?それともぉ…違うかもしれないっていう僅かな希望を持っているのかしらぁ?その希望ってぇ…あの二人じゃありませんように…って奴?それとも、これだけの証拠がありながら、俺じゃありませんようにっていう奴?ねぇ…教えてよぉ…あははっ!」
その声は、とても楽しそうで、嬉しそうで…。
何が楽しいんだよ…何が嬉しいんだよ…どうかしてる…。何で、目の前に血まみれで殺人犯が居ても、そんな調子でいられるんだよ…。
「…はぁ…。」
女は、笑うのを止めたらしく、深い深い溜息をついた。
そして、凄い力で俺の頭を掴んで、無理矢理顔を上げさせる。
女の表情は、怒りと悲しみを感じさせた。
「…ねぇ…どうしてこれだけやっても駄目なのぉ?本当に記憶思い出したいって思ってるぅ?」
「思ってる…思ってるに決まってる!」
「…じゃあ、何かポイントが違うのかなぁ…。仕方無いかぁ…、多少壊れてもいいわね。」
女は、やっと俺の頭から手を離し、ゆっくりと先程まで居た岩へと歩き出す。そして、こっちへついて来いと手を招く。
俺は、従わないと何をされるか分からないからと、動かしたくない足を動かして、女の元へと向かう。
女は、岩の後ろまで行って、立ち止まる。そして、にっこりと微笑み、腕を広げる。その顔は、歩く練習をする子に向かって、早くおいでという母のような行動だ。
ふらふらと、足を一歩ずつ動かして、揺れる心を必死に落ち着かせて、前へと進む。
倒れそうになりながらも、辿り着いた俺は、女が見ているものを見た。
俺は、見たくないものを見た。
俺は、気付いた。
女が待っている場所は、境界線の向こう側だと。




