力貸し
山登りは歩いてきた時と同じ並びになった。姉が先に進んで道を示して、その後から、正秋がついていき、その背後で龍が、正秋が落ちないようにサポートする。龍は、正秋のサポートをするのは内心不服だったが、渋々引き受けた。この山の急斜面の獣道は、普段から登りなれている龍にも相当体に負担が来た。正直なところ、この山には、近付きたくないという思いがあった。それは、相当昔この山の近くに行った時、邪悪な気配を感じたからだった。だから、ずっとこの山に続くあの道を渡りきるのは避けていた。しかし、久しぶりに来たら、その邪悪な感じは既に無かった。もしかしたら、小さい頃のちょっとした恐怖心から来たものだったのかもしれない、そう龍は登りながら思った。
木の根っこを掴みながら、龍がバランスを保っている時に、正秋が落ちそうになるのを防ぐのは、中々ハードだった。その他にも、川と渡る時に流されそうになる正秋を、流されないように必死に後ろから支えたり、飛び越えないと行けない場所を、正秋が中々決心がつかないのを、煽ってやる気を出させたり…、吐き気がするぐらい面倒臭かった。
「よーし、ここを乗り越えたら、後は普通に立って歩けるけぇね、頑張ろう!」
その声を聞いて、龍はやっとかという安心感に包まれた。
「しゃ、行くで~!」
龍は、拳を天へと突き上げた。
***
なんでこの餓鬼はこんなに元気なのか…、羨ましい程だ。目の前に居るお姉さんは、頑張ろうと言った声に元気が無かったのに。
木の根を掴んだ時、ビリッと痛みが来た。手を見ると、皮が剥けて、赤っぽい皮膚が見えていた。だから、ずっとヒリヒリしてたのか…そんな事にも、気付けないくらい必死だったって事か。気が緩んだから、痛みを感じ取れたって事なのかもしれない。でも、これくらいで痛いと言っても、今此処ではどうしようもない。だから、堪えて登り続ける。
「もうちょっとじゃね、うちらはいつもあそこから見ようた。」
お姉さんが少し立ち止まって、先にあるちょっとした段差を指差した。その前には大きな岩があって隠れるるのには、最適かもしれない。
ゴールが近付いている、そう考えただけで自然と力が入った。登るスピードも自然と上がる。それは、お姉さんも一緒のようで、スタスタスタと登って行く。後ろからは、元気な声が聞こえる。そして俺達はようやく、その段差に到着した。そこで、俺達は大きく息を吐いた。
「やっと着いた~、で、正秋の待ち合わせ場所は何処なんだ?」
二人のゴールは此処でも、俺のゴールは、この先だ。俺は、岩の陰から、先を覗く。茂みの中に木々がある。険しい道を登ってきたというのに、こんなにも開けていて、平坦で…もしここで秘密の話をするのなら、大分安全だろうな。ここまでの道のりで、人が最後まで登りきる事はキツそうだ。
「見える?大きな岩が綺麗に積み上げられとる奴。」
俺は、それを聞いて、その大きな岩を探す。すると、茂みの奥にそういうのが見えた。そして…そこには…あの女の顔が見えた。
-ズキン-
着物を着た女が、退屈そうに待つ、俺が現れると、不敵な笑みを浮かべて…。
そんな映像が一瞬脳内に流れた。そして、また奇妙な感覚…俺はいつものようにそれを受け入れる。飲み込まれた意識は…俺を朦朧とさせる。




