悠々
俺は教室に入って、鞄を机の横にあるフックみたいな奴にかけて、どさっ、と席についた。教室の鍵は開いていたが、まだ、誰も居なかった。それから、暫くすると、山吹が、かなりスローに教室に入ってきた。これが、元々なのか?山吹だけ時間が遅く進んでるみたいなレベルだな…。さっきから色々と変な奴。
ていうか、始業式まで、後40分もあるのか…。退屈だ。時計の針を見て、小さく溜息をつく。前の席では、山吹が本を読み始めている。何の本だ?かなり速いスピードで読み続けているようだが、そんなに面白いのか?というか、読むのは速いのか…。純粋な好奇心で、見てみようと思った。すっと、体を気づかれないように右側に、動かす。俺は、こう見えても、かなり目がいい。視力は両方2.0。覗き見魔には、最高のもんだ。
『それらの理由から、魔女は本当に居たのです。ただ、先程も述べたように、魔法を使っていたわけではありません。彼らもまた、人間でした。しかし、彼らには、不思議な力がありました。超能力と言えば、そんな感じですが、ちょっと違います。それは、多くの非凡な人間には、恐ろしい力でした。ですから、非凡な人間は、彼女ら又は彼らを魔女とすることで、人間と切り離して考えるようになっていきました。この思考になったのは、中世あたりだったのではないかと、考察されています。だから、中世では、魔女狩りが多く…。』
魔女狩り?魔女の本を読んでるのか?こいつ、なんて本を読んでんだ…?こういう本が好きなのか…?
これ以上を覗き込もうと思ったら、かなり前に身を乗り出さないといけなくなる、危険だ。やめよう。
ん?こいつ、さっきより本を読むスピード落ちてないか?かなり、落ちてるよな…。さっきはかなり、本を読むスピード速かったような…。めっちゃめくる音速かったし…。あ、ようやく一枚めくった。
このスピードだと、俺も読みやすい…ん?ん?んんんん?
山吹…無言でやるのはやめろよ…。鳥肌立つじゃねーか…。
俺の中で、山吹という女についての情報が更新された。暗い、人見知り、速読、そして気配りが出来るということだ。
でも、この気配りは、俺にはいらないぞ…山吹。本当にいらない。
俺は、ゆっくりと、机に伏せた。意識を遠くに持っていくことは出来ない、何故なら、今日は、ぐっすり眠ってしまったから。この、長い長い時間を、起きたまま過ごすのはキツイ。しかも、覗き見がバレて、無言で気遣われ、その人と二人っきりの教室、しかも前後など、最悪である。そして、暫くすると、また、かなり速くページをめくる音が聞こえ始めた。