能力
2人は、俺の言葉を聞くと、少しアイコンタクトを取って、頷いた。そして、二人共俺の目をしっかりと見ながら、お姉さんの方がゆっくりと口を開いて話し始めた。
「あの時は…戦も無くなって、殆どの人達が穏やかに暮らしとった。それに、うちらの住んどる国は、殿様が他の国と比べても、本当に素晴らしい方じゃった。民の耳によく、耳を傾けて下さっとって…上に立つ者として、出来た方じゃった。でも…そんな時こそ続かんもんじゃね。ある日、殿様と奥様と御長男が、何者かにより襲撃されたんじゃ。その時代には珍しく二人兄弟じゃったけぇ、必然的に弟の方が跡を継いだ。」
「その弟が、お前だ正秋。」
俺は、無言で頷いた。思ったよりも驚かなかった。あぁ、そうなんだ、くらいの感覚だ。
「お世辞にも、上に立つものとしての器とは思えんかった。自分さえよければそれでいい、自分に注目して欲しい。自分を見て欲しい。それだけが、伝わった。年貢も異様に高くなって、民衆側にはかなりの負担がのしかかっとった。そして、それを嘲笑うかのように、次々と国を飢饉やら災害やらが襲った。それでも、あんたは何もせんかった。沢山人が死んでも、苦しんでても…いつまでも、自分の事ばっかり。なのに、この国の住民の殆どがあんたを素晴らしい統治者じゃと崇めとった。それはもう異様じゃったよ。先代の時ですらあった不満…それは、当然じゃ。じゃけど、あんたになってから、不満を普通の人間達からは一切聞かんくなった。でも、普通じゃない一部はそうじゃ無かった。うちらみたいに周りの状況に混乱しとった。で、その一部が集まって、暗殺計画を立てて、そして、あんたは暗殺された…事になっとっただけだったみたいじゃね。」
「暗殺…?」
「おう、おら達は参加しとらんけどのぉ。お前は死んだ事になっとったんよ。おら達の認識ではの。でも、生きとるって事は何かやらかしたんじゃろう。綺麗に歴史から消しとるよーたけど、一番大事な所出来とらんし、ほんまに消しとんかどうかも怪しいのぉ。それにしても、お前、全然取り乱さんね。絶対、こんな事言われたら、わしだったらどうにかなっとるわ。」
「言っただろ、覚悟なんてとっくに出来てる。なら、それを受け止めるだけ。」
俺は、殺される事になってた…。死んでた可能性もあったのか。死か…今日はやけにそんな目に合った。そういえば、夕方下校に見た、あの夢…記憶の一部。その状況も死を感じた。もしかしたら…暗殺の時の出来事かもしれない。
「その暗殺には、他に誰か巻き込まれなかったのか?」
俺の記憶では、何人か死んでたし、雛乃によく似た…というか恐らく本人が倒れていた。それをやんわりと探る。
「う~ん…おら達は参加したわけじゃないけぇね。力を使って、正秋共々城を焼けって頼まれたんじゃけどさ。そんなん、超疲れるし、もしかしたら、一般人を巻き込むかもしれんけぇさ、断ったんじゃ。じゃけぇさ、その辺までは知らん。参加した奴じゃないと、わからん。参加した奴も、今じゃバラバラじゃし。まぁ…あの時、城に住んどった人達は、纏めて殺したと聞いたんじゃが…。」
知らない…か、でも雛乃は今を生きている。雛乃と俺だけが助かったみたいな感じなのか?俺が助かったのは、あいつが俺を時間を操って…。なら、雛乃は?雛乃も時間を飛んだのか?さっきこの餓鬼も力とか言っていた。その力についても探るか。
「そうか…。なぁ、力って何だ?一般人を巻き込むほどの力?存在するとかしないとか、馴染めたとか馴染めないとかと関係してるのか?」
「その辺は、うちらもよう分かっとらん。ただ、少し昔に先生から教えてもろうた事をそのまま言うとね、人間には、生まれつき不思議な力を持つ者と、そうでない者とそれに属さない者の3種類がおるらしいんよ。で、持つ者も細かく分ける事が出来るらしいんじゃけど…その辺はよう覚えとらん…横文字っぽいものが多くて、頭に入ってこんかったんよね…龍は覚えとる?」
無言で餓鬼は、首を横に振った。
「あ、でも、それに属さない者の説明はちゃんと覚えとるけぇ。属さない人はね、ある日何かをきっかけにして、能力が目覚めた人の事を言うんじゃと。大体能力を持つ人達は、遺伝なんよ。じゃけぇ、先祖代々その能力を受け継ぎ続ける。でも、その突然目覚めた人達は…遺伝子の突然変異?とか言うやつらしいんよ。でも、その能力は未成熟で、不完全。能力を持つ者には、能力が効かん。他にも色々見分ける手段があるよーたけど…難しすぎて覚えれんかったんよね~、まぁ、あんたは、多分、突然変異したタイプじゃと思う。」
「成る程…それで、俺は能力で、いいように国民を従えてたって事か。で、未熟で中途半端だから、一部の能力の持ち主には効かなかった…そういう事か。ははっ…ハハハハハハハハハハ!」
何故か、笑いが込み上げてきた。自分で自分に軽蔑して、笑うしかなかったからだ。あの女が俺をそんな目で見る理由も、なんとなく分かった。
「やっぱり、気でも狂った?」
「フフッ…ハハ…違う…ハハ、生まれるその前から中途半端とか…嗤うしかないだろ?ハハ…駄目だなぁ。」
すると、突然口に塩辛いものが入ってきた。泣いてるんだと分かった。
「姉ちゃん、こいつ情緒不安定になっちまった。早く、医者来んのん?」
「じゃけ、瑠璃に、迎えに行って貰ったんじゃけど…あの人の事じゃし、のんびり来るしかないんかも…もう少しで来るじゃろ。」
自分に対する怒り、どうしてこんな人間に生まれたんだという悔しさ…色んな感情があって、あげればキリが無い。昔の俺も…こんな風に…ずっと苦しみながら生きてたんだろうか。だとしたら…滑稽だな。




