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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
短命の人生行路
34/59

姉弟との再会

はっと目を覚ますと、目の前に熊が居た。

「う゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」

俺は、逃げようと立ち上がろうとしたが、寝た体勢から動けない。

「黙れや。」

性別不詳の声の主は、木の上から現れた。現れた声の主は、白髪で、老人なのかと思った。だが、その人物がゆっくりと近付いてくるにつれて、その人物は、やはり子供だという事が分かった。遠くから見ると少年なのか少女なのか、俺には分からなかった。俺が周囲の状況を確認すると、木々が生い茂っていて、普通人間が来る様な所では無いと思った。

そして、熊は、確かに落ち着いていた。ただ、俺の様子を見ていただけ…そんな事あるのか?野生の熊では無いのか?

声の主が目の前に来て、ようやく少年だと分かった。どっちとも取れるような声だったので、遠くに居た時は、把握出来なかったが…顔をしっかり見て、男だと分かった。まぁ…男の娘って奴か。女子が言ってたのを思い出した。

「本当すいません~、龍がぶち重症を負わせてしもうたみたいで…謝りんさい!」

突如、すぐ近くの上から声がしたかと思うと、しゅたっと女性が飛び降りてきた。彼女もまた、白髪だったが、見た目は、俺より少し年上のお姉さんという感じだ。

「ちっ…悪い。」

謝る気ゼロの顔で、しかも、棒読みで言われた。

舌打ち…怖っ!こんな餓鬼が俺を殺そうとしたのか!?

ってか、この二人何者!?なんで、普通に熊と横に並べてるの!?

「ほんまぁ~、あんたは謝る事も出来んのんね!?殺す所じゃったんよ!?」

「んだよ…、こいつが小芝居しとるだけかもしれんのにさ。姉ちゃんそういう所甘いんじゃって。」

この二人はどうやら、姉弟らしい。確かに、顔のパーツが似ている。でも、雰囲気は全然違う。

というか!こんな事してる暇は無い!俺、まだ仕事終わってないよ!

「あ!起き上がらんで!駄目!」

すると、周りに居た熊がぐるるるるっ…とうなり声を上げる。脅しか。熊と姉弟がどういう仲なのかは知らないが…、でも…また中途半端になっちまう。俺は、嘘をついてあの人を騙している。もし、ここでちゃんとやり遂げなかったら…俺は後悔する。

「やらなきゃいけねー事があるんだ!婆さんの野菜守らねーといけねーんだよ!」

「は?野菜?んなもん、別にいいじゃろうが。てか、守られても困るんじゃけど。」

ゴミを見るような目しやがって…。

「困るって何だよ…。」

「この辺にはもう食べ物が殆ど無い、山にもある食料だけじゃ、ここの全員分もたんのんじゃいや。じゃけぇ、人間が作る分を盗むしかのーてさぁ…。昔は、他にも畑とかあったんじゃけど、もうこの辺だったら、あの婆さんが作っとるとこ無いんだって…、向こうの方は他の奴らの縄張りじゃけぇ、勝手に行くとえらい目に合うし。」

もしかして婆さんはこれを知ってる…?だから、今日だけって…。でも、とりあえずちゃんとこっちの事情を伝えよう。

「婆さんは、自分の作った野菜を自分達の子供や孫に食べて欲しいって言ってるんだ。でも、お前達の事情を何か…わかってるみたいだった。明日の朝来るらしいんだよ、だから、せめて、その…今日は野菜を盗まないで欲しい。頼む!」

その俺の声の後、暫く木々の間を通る風の音だけが響いた。

「…分かった。」

「姉ちゃん!?」

「…うち、ずっと悩んどったんよ。あのお婆ちゃんが一生懸命育てとったのを見とった…。お婆ちゃんだけじゃない。昔、ここら辺りで野菜とか米とか育てようた人達も。じゃけど、うちらがそれを奪い続けた…。自分達が生きていく為、私達の家族の為、でも、それは、皆一緒じゃ…。本当は、ああいうのを買うのってお金って奴がいるらしいんよ…。うちらにはそれが無いけぇ…。これは、悪い事じゃ。あのお婆ちゃんは、それでも役所にも言わず…ただずっと野菜を育てとって…。お婆ちゃん凄く苦労しとっちゃって…じゃけ…これを機に盗むのは止める。他に方法見つけるけぇ…瑠璃、お願い。」

瑠璃と呼ばれた熊は、ゆっくりと奥へと消えて行った。

「何言っとんじゃ!馬鹿たれ!他に方法なんて…ずっと探しょうたけど、無かったじゃろーが!川とか山菜とか、草とか虫だけじゃ足りんって…。ただでさえ、どんどん此処に来る奴増えとんのに…。」

彼らの顔は、絶望で満たされた表情だった。

「あ…あの、働くとかって駄目なんですか。」

やっと出た言葉だった。俺には、わからない。野生児感はあるが、人間と普通にコミュニケーション取れている。普通に人と関わる事が出来ているのに…何故、山で生きている?

「昔は出来たんじゃけどね…今は…戸籍とかも無いし、苗字って奴も無いし、存在せん筈の人間じゃけぇさ…、しかもこの格好よ?不審過ぎて、すぐ御用じゃわ。」

「ここを見つけ出されて、熊達見つかって、殺される…そんなん、おら嫌じゃ!」

餓鬼は、小さく震えていた。やっぱ小生意気なだけで、子供なんだろうな。

「存在しない筈?御用?何者なんですか?」

「存在しない点については…お前もだ。正秋さんよ。」

「え?何言ってるんだよ…?俺が、存在しない筈の人間?でも、俺は普通に学校行ったり日常生活送ってるぞ!」

ははは…この餓鬼…どこまで俺を馬鹿にするつもりなんだ?

「じゃあ、なんでこんな時間に一人でふらふらしとんじゃ。」

「そ…それは…色々あるっていうか…、でも、俺は今までずっと普通に生活してた!」

「ふーん、じゃあお前は、馴染めた方の奴ってか。いいのぉ…。」

「あの…ほんまに何も覚えとらんのん…?うちらの事も?」

そう言うと、俺の顔を覗き込む。

「知らないです…さっき、名前呼ばれてた弟さんの名前を知ったんで…、あの俺の何を知ってるんですか。」

「聞いといてすいません、思い出さん方がええと思うよ。うちは今の方が…あの時なんかよりずっと肩の荷が軽そうに見えるんですわ。きっと、今は家族って言える人達がおるんでしょ?うちには分かるよ。じゃけぇ、怪我が治ったら帰った方がいいと思う…。家族、心配しとると思うけん。この酷い怪我は…自分の知り合いだったら、すぐ治せると思う。でも、この事は内緒にしといて欲しい。後、さっきいった約束はちゃんと守りますけぇ…。」

そう言うと、目をそっと逸らした。思い出さないほうがいい?嫌だ…絶対に思い出したい。今しかチャンスは無い気がする。こういう時を逃せば最後だ。

「いや…俺は思い出します。自分が何者か分からないって…凄く気持ち悪いし、怖いんですよ。それが、もう少しで終わるかもしれない。それに、最近たまに記憶が戻ってくる。こんな事は初めてなんです。こういう時を逃したら、もう思い出せなくなるかも…だから…絶対思い出します。お姉さんが心配してる事…それって、弟さんが俺を殺そうとした理由と関係してますよね?でも…自分がろくでもない人間だった事くらい…なんとなく…わかってるんですよ。」


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