神になる
俺は、いつの間にか辿り着いていた近所の廃れた神社で乱れた呼吸を整えていた。心臓がバクバクで、足も痛くなって、喉が渇いて、俺はもう死にそうだった。なんで、もう少し冷静になれなかったのか…今更、何を考えても手遅れだ。そして、改めて俺は屑なんだと気付かされる。自分がこんな状況になってから、また、誰かに頼る事を考える。箱庭から飛び出した小さな奴は、所詮小さいままだ。俺には、行く当てが無い。何処にも無い。何も考えず、あの時の気分でそのまま、着の身着のままで飛び出した。俺の悪い癖だ…、一体何度同じ過ちを繰り返して、冷静になって後悔し続ければ、この癖は直るんだろうか。勢いに任せて、今まで良い結果に転んだ記憶が無い。
はぁ…、本当、どうしよう。お金も持ってきてないのはマジでやばいよな…。
空を見上げると、夜の訪れを感じた。
とりあえず水は、手水舎を頂こう…神様御免なさい!
柄杓を水をすくって、手の平に水を受けて飲むという作業を繰り返した。
流石に直接はな…ちょっと汚いし…。
水を飲んだら、少し生き返った気分だ。ただ、問題は食料だ。食いもんが落ちてるわけ無いし…。
でも、今帰る勇気なんてないし…どうしたもんかな。
腕を組み、うろうろと悩んだ末、俺は…。
神頼みをする事にした。
あー神様ー、何でもいいから食べ物をお恵み下さい…。
…こんなんでいいのか…俺は。
その時だった。
「ぬうぅぉぉぉ!?」
俺の背後から、しわがれた声が聞こえた。俺は、一瞬どきっとしたが、振り返ってみると全く知らない婆さんだった。
でもでも、まずい、警察とかに言われたら厄介だし…。どう誤魔化そう!?
「ま、まさか、貴方様は…この神社の秋神様でございましょうか!?」
え…何で、どうしてこうなったの?秋神様って何?初めて聞いたよ?
「我々が先祖代々聞いてきた、神様の容姿がよーく似てらっしゃる!んまぁー!こんな事があるもんなんじゃのぉ~!言いつけを守って、毎日欠かさず参拝し続けて良かった…。」
婆さんが、突然涙を流し出した。というか、もう神様認定されちゃったよ…。いっそ、神になるか…?なんてね…。でも、今のこの状況は有効活用出来るかもしれない!とりあえず、今の俺は神様で居よう、ここまで喜んでいる婆さんに違うよとか、今言ったら…婆さんぶっ倒れるかもしれないしな。
「そ、そうである。私こそがこの神社の主である。」
とあるゲームの神様の口調を必死に真似をする。
「やはり…!参拝続けてはや70年…雨の日も風の日もこの神社に参拝し、祈り続けて…ついにこの日が来ようとは…!」
俺は秋神様と勘違いされているのか…そんな毎日参拝されるような神様なのか?秋ってあるし…作物か何かかな…?にしても、俺と容姿がそっくりって…よく判別出来るくらい、言い伝えがはっきりと伝わってきたな。
「ほっほっほっ…、お主の並々ならぬ信仰心…私は感謝を伝えようと、お主を待っておったのだ。」
あれ、俺結構、様になってない?俺、神様になれるかも知れない。
「それにしても、最近の神様もお洒落されるんですねぇ。」
ヤバイ!そらそうだ、大体俺らの中の神様のイメージは、こうなんか正装してるっていうか…、なのに、この若々しさ!どうしよう、えっと…そうだ!
「我々の世界も発展を遂げている。今や殆どの神は、こんな格好をしているぞ。」
まぁ、絶対してないと思うけど…。信じてくれるだろうか?
「秋神様がそう仰るのなら、そうなんでしょうのぉ!あ、そうじゃ、そうじゃ、秋神様、今日のお供え物です、是非、お食べ下さい。」
目の前に差し出されたのは、美味しそうな3つの蕨餅だった。
なんか、願い叶ったぞ!やった!有難う、婆さん、神様!
「ほっほっ、有難く頂戴するとしよう。」
俺は、それを受け取った。
「…秋神様、それでは私の願いを聞いて下さい。」
嗚呼、そうか、これが神様業務か…大変だな。
「最近は足腰も悪く、畑仕事も苦になって来ました…それだけじゃのーて、夜になれば畑を獣達に荒らされて、ずっとずっと願い続けて来ましたが…もうやっとられんのです。どうか、畑を荒らす獣達を追っ払って欲しいんです。獣達も生きていくのに必死なのは、わかるんです。だから、秋神様が今まで私達の願いを聞き入れる事が出来なかったのも十分承知しております。じゃけど…いえ、ですが、私もそれで生活しとりますけぇ…どうかこの我侭な願いを聞き入れては下さいませんか。」
婆さんは、手を俺に向けて合掌しながら、俺に向かって言った。
獣を追っ払うって…まじ?まじで言ってる?
「そ…それが、お主の悩み事か…。」
ずっと…ただ願い続けてきたのか…、この婆さんの生活が懸かってる。でも、荒らす獣達も生きていくのに必死で…、でも、一体どうしたら…?獣相手に、説得なんて出来ないし…。
「無茶を言うとるのは、百も承知なんです。でも、可愛い子供と孫に美味しい野菜を鱈腹食わしてやりたいんです。秋神様も他の仕事で忙しいでしょうから、今日の晩だけでいいんです!明日の朝、子供と孫らが来るんです、是非…お願いします。」
そう言うと、婆さんは俺に深くお辞儀をして、杖を突きながら、ゆっくりと立ち去って行った。
参ったな…、でも、婆さんには恩があるしな…やるだけやってみよう。
だって今だけは俺、神様だし。




