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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
短命の人生行路
25/59

危機

向こうで激しい衝突音が聞こえる少し前まで、俺は雛乃を連れて走り続けた。正確には、その衝突音がする少し前に雛乃が倒れるように座り込んでしまい、走るのを止めざるを得なかったという方が正しいのかもしれない。音がした方を見ると、さっき俺達が居た所の壁に、車は思いっきり衝突していた。

もし…まだあそこに居たままだったら…そう思うと体から熱が消えて行くのを感じた。

しかし、その大きな車は止まったかと思いきや、再び俺らの方にまで直進して来たのだ。ががががっと嫌な音を立てながら進み、数百m先の俺らの所にまで向かって来ている。

雛乃を無理矢理起こして連れて行こうと、腕を引っ張るも、雛乃はまるで地蔵のように動かない。

「おい!!!死ぬぞ!!まじで、やべぇんだってば!!!」

音が確実にこちらへ向かって来ている、間違い無い、確信犯だ。わざわざ俺達が居る所に向かって走って、殺そうとしている。

俺が顔をあげると、目と鼻の先の距離にまで来ていた。

もう…駄目だ…。

咄嗟に目を瞑った。だが、本来俺にあるはずだった衝撃は無い。恐る恐る目を開けると、車は先程まで衝突していた壁の所まで戻っていた。

「おい…車がさっきの位置まで戻って行った…。」

「何で!?どうなっとん!?」

「逆再生みたいじゃった…。」

「警察と救急車!」

「あの子達大丈夫なん!?」

状況を察するに、戻ったのは車だけ、周囲がそれを見てざわついている。

「はぁ…はぁ…。」

雛乃がまた車に向かって手を伸ばしながら、大きく呼吸音を立てていた。

何なんだ!?こいつが一つの物に手を伸ばすと、その物だけの時間がまるで遅くなったり、戻ったり…。そういえば…始業式の日にも同じ事があった…でも、あの時は、手を伸ばしてはいなかったような気がする、でも時間がおかしくなってしまった事だけは覚えている。その後、俺が教室から出たら、ふわっとなって…気付いたら体育館に居て…あれは、まるでワープしたみたいな感じだった。まさか、雛乃は時間を操れるのか?…って何を考えているんだ俺は!非現実的過ぎるだろ!時間を操るなんて…そんな魔法みたいな事…。

-ズキン-

『雛ね~もっと遊びたいけぇ、時間ゆっくりさせる!秘密じゃけぇね!』

かなりの頻度で起きるようになった頭痛の直後、俺の目の前で、綺麗で高級そうな着物を着た幼い少女が、しーっ、っと指を口に当てて悪戯っぽく笑う。

目の前で描き出される光景、まるで今此処で起きているかのようだ。

少女は、鞠を楽しそうにしゃがみこんでつき始めた。

空を見ると、鳥がとてつもなくゆっくり飛んでいた。

『どしたん!寅千代!はよあそぼーやぁ!』

少女は、速く速くと急かすように手招きをする。俺が、そこに誘われるように向かおうとした時だ。

その穏やかなのんびりとした風景が突如、炎に包まれる。

先程まで、少女の居た所には、沢山の死体が転がっていた。そして血生臭く、木の焼けた臭いもする。

何が…どうなって…俺はさっきまで普通の道路に居たじゃないか!雛乃は何処だ!?

俺が一歩、足を動かした時だ。何かに当たった。

そこには見慣れた顔があった、雛乃だ。ただ、服装などが違って、着物を着て簪を挿した昔の女性の格好でそこに倒れていた。

『生きて。』

悲しそうな切ない表情。そして、その消えそうな声が俺の脳で木霊する。雛乃は俺に向かって静かに手を伸ばす。

『遠い先の我が国ならば…貴方は…きっと…今のような苦しみは…。』

体がふわっと浮き、突如今まで見えていた世界が消え、真っ黒な世界に投げ出された。

そして、激流に押されるような感覚が体を襲った。その感覚の後すぐ、頭に激しい衝撃が走った。その衝撃はあまりにも大きく、俺の中から様々なものが消えていくような…そんな感じだった。

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