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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
短命の人生行路
20/59

切り開け道を

俺が、覚悟を決めて、猛ダッシュでパソコン教室に入ると、先生と皆が一斉にこちらを見る。

「結城、どしたんや。」

眼鏡をかけた情報処理の先生が睨みを利かしてくる。この先生は、この学校で数少ない俺を依怙贔屓をしない先生だ。だから、怖い。

「えっとですね…、保健室に行ってて…それで遅れたって言うか…。」

「ほんまじゃろうのぉ?」

「本当です…。」

唾を飲み込み、先生の目をじっと見つめる。まるで、裁判にでもかけられている気分だ。

「保健室に行くなら、誰かに言ってからにせーよ。ほい、はよ座れぇ。」

良かった。保健室に行っていたのは嘘じゃないが、こんなに長く行っていた訳ではない。

闇雲は大丈夫だろうか…?ドラマの熱いテンプレ主人公みたいな奴だから、軽く冗談でも言って誤魔化してるのだろうか。ま…なんにせよ、あのキャラなら大丈夫か。

俺は、ほっと溜息を漏らし、自分の席に着いた。

そのまま、授業は何事も無かったかのように始まった。

***

「気をつけ、礼。」

「「「ありがとうございましたー。」」」

授業を知らせるチャイムが鳴り、終業の挨拶をする。次は、6時間目…体育だ。

死ぬほどお腹が空いたが、呑気に食ってる暇は無い、さっさと体操服を持って教室から逃げださないと…。

女子が、教室で着替えるので、俺ら男子は、更衣室で着替えないといけない。女子は自分達が教室に入ったら、すぐに男子が居ようが居まいが着替えだすので、俺らは急がないと、危険だ。1年の時、俺と野球部男子が、遅れてしまい、女子達が着替えている時に入ってしまい、俺は、何にも言われなかったが、もう一人の野球部は…合掌。不自然なくらい俺だけ文句言われなかったんだよなぁ…でも、勘弁して欲しい。誘惑が強過ぎるんだよな…。理性に感謝したい。駄目だ駄目だ、こんな事を考えている暇は無い!

俺は、風のように颯爽と教室へと向かった。

***

簡潔に言うと、俺は、間に合った。まだ、女子が着替え始める前で、何の問題も無く体操服を持って更衣室へと向かった。まだ…あの世界は俺には早い。

にしても…お腹が空いた…。これから体育…激しいのは…死んでしまう。

体育の選択授業…俺、剣道選択したんだっけ…、剣道なら問題ないよな…。多分。

そんな事を考えながら、更衣室で更衣を済ませると、誰よりも早く剣道場へと向かった。

さっさと準備をして、体を動かしておかないと空腹に考えがいってしまう。

俺は、棚にあった防具を持ち、紐を解いて、さっさと準備を済ませた。剣道は、1年の時にもやった事があるし、なによりやり易くて、楽しい授業だ。

俺が、竹刀を持って素振りをしていると、先生がやって来て、感心したようにこちらを見た。

素振りをすると、何か色んな感覚が流れてくるように感じる。これは、1年の時もあった感覚だ。もう少しで出掛かっているのに、詰まってしまって出てこない、気持ちの悪い感覚。それが、前よりも強く強く感じる。前は良く分からなかったが、今なら少し分かる。この感覚は、俺の記憶の向こう側のものだ…。身体に染み付いている…そう思う。

「剣道の時は誰よりも早く来とるのぉ~、他の体育の授業もそうして欲しいんじゃけど…。おーい、他の奴もはよ来て、準備せーよ!」

ちくりと言われた気がするが無視をした。剣道の授業は、1年の時剣道を選択していた生徒がそのまま選択する事になっているので、もう皆やり方は覚えている。来た生徒から、準備をして素振りをする。剣道の授業は、皆それぞれ自由にやって、たまに試合形式でやっていた。

皆が、徐々にぞろぞろとやって来て、防具などの準備を始める。その中には、山吹や安藤も居た。安藤は鬱陶しかったので記憶にあるが、山吹は居たか…?俺が覚えていないだけか?

「今日は、最初じゃが、試合形式でやってみるけーの!メンバー変わっとらんけぇ、ええよの!」

まじかよ…試合形式はきつい…、お腹空いて体力もほぼ無いようなものなのに…。それに、この感覚結構身体に来るんだよな…。

「結城は、決勝戦から参加じゃ!ええの?」

またか…、俺そんなに強くないのになぁ。他の剣道部とかにすればいいのに…。

「わかりました。」

とは言え、集中力やら体力やら使わなくて済みそうだし、お言葉に甘えて出番が来るまで、ひたすら素振りでもしていよう。

試合はトーナメント式でやるようだ。たんたんと、試合が進んでいく中、俺は素振りに意識を集中させる。しかし、詰まった感覚が強くなるばかりで、大事な事は何も思い出せない。

さっさと、終わってくれ…お腹が空いた…というか、この素振りで余計に体力使ってるよな…でも…この感覚を呼び起こせるのは、剣道部じゃない俺が出来る唯一のチャンスだ。部活に入ればいい話だが、そうもいかない。畑仕事やら田んぼやらで忙しいし、家の手伝いだってしないといけない。二人には、無理をさせてしまっている。せめて放課後は…手伝いをしたい。だから…こういうチャンスで頑張るしかない。

ーズキンー

今までにこの感覚では無かった頭痛が起こる。頭が粉々に粉砕されそうだ。あの体育館と家と同じ痛み。くるくると世界が回り出す。脳が誰かに触られているみたいで気持ちが悪い、意識がどっかに飛んでいきそうだ。いっそ飛ばした方が楽になれる…でも耐えるんだ。耐えろ!耐えるんだ!

俺は、目眩の中、歯を食いしばり、必死に意識を保ち、素振りを続ける。

絶対に何か思い出せる、ここで倒れたら意味が無い。自分の体に勝て、精神を保て…そう自分に何度も言い聞かせる。頭痛に意識を持っていくな、今集中すべきなのは、この素振りだ。

すると、激しい痛みの中、初めての感覚、詰まっていたものがどこかに飛んで行き何かが溢れ出す感覚、俺はその妙な感覚に包まれたその瞬間、その感覚に飲み込まれてしまった。

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