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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
短命の人生行路
17/59

言葉の力

俺が話を終えて、教室に帰ってきたと同時に始業のチャイムが鳴った。一時間目は、家庭科で、まだ先生は来ていなかった。俺は、内心安心しながら、着席した。

先生は、数分後に、走ってやって来た。

「いやぁ~遅れてごめんね~、号令はいいや、よし、教科書23ページ開いて!プリント配りま~す。」

教科書23ページを開くと、そこには、赤ちゃんの写真が載っていて、タイトルには『子供の生活』と書いてあった。家庭科について学ぶ事はこれか…。

配布されたプリントが山吹から回ってくると、そのプリントに日付と名前を書いて、目を通した。

そのプリントには『自分の幼少期』と書いてあった。

その文字は、俺の心を深く抉る。

分からない、分からない、分からないんだよ。俺が今知っている自分の事は全て、俺の周りで家族と名乗る人達に教えて貰った事だ。それが正しい事なのかも、勿論分からない。思い出そうにも、思い出せない。今までは、逃げていた。思い出せないし、仕方ないって。でも、それは自分そのものに対する恐怖に怯えていたから。そんな、逃げてばかりの俺に、向き合う事を初めて求めてきたのは、皮肉にもあの女だった。

『知りたいんだったら、行動しなきゃ…、分かりたいんだったら、自分からやらなきゃ…。』

あの言葉が、俺の脳に深く刻まれている。この言葉の魔力は計り知れない程、俺に影響を与えてきている。

これを動機にすれば…別に聞いても怪しまれないよな…。

今まで俺は聞く事をしなかった。そんな俺が突然聞いてきたら、疑問思うかもしれない。

それに、俺も聞くタイミングが聞き方が分からなかった。だから、これは丁度良いチャンスなのかもしれない。神が俺に全てを思い出す時だ、と言っているのかもしれない。

聞ける事は何だろう?

俺は、プリントに目を落とす。

『名前の由来、赤ちゃんの時の身長・体重、どんな子に育って欲しいと思ったか、赤ちゃんの時のエピソード』

もし…俺の親が…俺の赤ちゃんの頃を知っていたのなら、どれも答えられる内容だ。

俺の家族も、『遠い遠いあの日』から飛ばされて来ていればの話だが…この可能性は、皆無に等しいな。

はぁ…こんな事を考えないといけないなんて虚しいにも程があるなぁ…。

「は~い、自分の幼少期の部分は、保護者の皆さんに聞かないとわからないと思うので、来週の月曜までの宿題にしまーす!それで、発表してもらいたいと思いま~す!」

「「「「えーーーっ!!!」」」

「やじゃしー、なんで発表せんといけんのーん!」

「ほんまよー、たいぎー!」

発表は皆嫌らしい、俺も嫌だ。もしかしたら、というか、ほぼ確実に何も教えてもらえない可能性がある。そしたら、俺は…どう誤魔化せばいいんだ?

「先生聞きたいも~ん、それに、自分の赤ちゃんの時を知る事で、内容も理解しやすくなるかもしれんけぇ!あ、写真もあったら嬉しいな~、これは出来たらでいいんじゃけどさ!」

幼い時の写真…見た事ないな、中3の冬、家に誰も居ない時に興味本位で、部屋の高そうな本が沢山ある本棚を漁っていた時、まるで隠しているかの如く、奥の奥にあったアルバム。それを見ると、兄弟達の幼い頃の写真は沢山あった、だけど、俺だけ…中3の時のものからしか、写真が無かったんだ。一生懸命探したけど無かった、それから俺は自分に深く関わるのを止めた。それが、俺が俺から逃げ出すきっかけだった。

「よ~し!じゃあ、先進めるよ~!!!じゃあ、教科書読んでくれる人!」

授業という授業がようやく始まった。この先生は、いつも始まりが遅いんだ。

そして、俺は、いつものように窓から外を眺める。外では、体育をする生徒達が準備運動をしていた。

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