記憶の整理
俺は一人、静かな教室で、今までのごちゃごちゃした事を頭の中を整理していた。
まず、あの女の目的は、俺に俺の正体を思い出させる事。だから、リスクを背負ってまで、俺が確実に居る学校に侵入して来た。でも、自分では言いたくない。恐らく、普通に伝えるのは、女にとって面白くないからだろうと、なんとなく想像する。自分が知っていて、多くの人が知らない事を、クイズで形式する事と同じようなものだろう。今思えば…あいつのあの時の表情は、楽しそうにも見えた。
ただ…俺が居るとわかっている学校でも、流石にいつ俺が学校に登校するまでは分からないものだろうと思う。確かに、前あったが、あれは俺の普段の登校時間だ。今日は、俺は、安藤からのラブレターを送られてこないようにするために、俺は、安藤がいつもラブレターを置いてくる時間を、俺の事をファンクラブ会長岡田もあに調べさせた。そう、岡田もあに調べさせた。岡田は俺が早く来る事を知っていた。あいつだけが。
でも、分からないのが岡田と女の関係だ。一体、どういう経緯で?あいつが勝手にファンクラブを作って、俺に執拗につきまとって来るのは、あいつに情報を流すためか…?岡田になんか、いい事でもあるのだろうか?そういえば、いつもあいつは、手帳的なものにメモをしていた。あそこには、俺の情報が大量にある。あいつが、安藤の事についてを教えてくれた時も、あれを見ながら丁寧に説明してくれた。あいつの情報は、かなり正確だ。時間をかけて綿密に調べて、それを…。あいつは情報屋…?情報屋として、あいつに聞かれたから…。
「結城君!おはようってば…。」
その声に、俺の中でまとまってきた物が、ぶっ飛んだ。
山吹が、俺を心配そうに見ていた。
おはようってば、って事は何回か言ってたのか?ってか、こいつ、ちゃんと大きい声出せるのか。
「あ、あぁ…、おはよう。」
もう少し、今の記憶をまとめたかったが…、また静かな時にでも考えるか…。
「よかったぁ~、凄い険しい顔したまま、微動だにしなかったから…、いつも以上にかなり怖かったよ。」
「いつも怖くて悪かったな。」
ちょっとからかってみた。というか、怖いって思ってるなら、話しかけてこなくていいんだけどなぁ…。
山吹は、どうしようというような表情を浮かべて、あたふたし出した。
「えっ!?えっと…、ごめん。」
思わず、言ってしまった言葉だったんだろう。俺は、そんな山吹をちょっと可愛いと思ってしまった。
「や、普段俺が、周りからどう見えてるのか分かって参考になった。」
「…、そう思ってる子は、私くらいなんじゃないかな…。」
山吹は、少し眉尻を下げて笑った。
「殆どの人が、結城君が凄く苛々してても、冷たくされても…それをなんとも思ってないというか…当たり前だからというか…、上手く言えないんだけど…結城君だから、許されてるみたいな…。怖いとかマイナス的な言葉で…結城君について言ってる人、私は知らないな…。」
「それってさ…、何で?」
俺は思わず、そう質問してしまった。山吹が知っているわけでもないのに。
「…結城君の…何かが…そうさせてるとかかな…?あはは…。」
そういえば今分かったけど、山吹は、さっきから手を握ったり閉じたり忙しない。
「何かって、何だよ…。ま、結構前からだし。ちょっと気味悪いけど、お前は気にすんなよ。」
「え?う、うん。」
山吹は、また笑ったが、相変わらず困ったような笑顔だ。
それから、また少し、たわいも無い雑談をした。本当に世界で最もありふれた会話だったと思う。それでも、山吹と話すのは、何か他の奴とは違って、普通でそのままで…つい話し続けてしまうようになってしまった自分が居た。そう、つまり、楽しかったんだ。
まるで、あの時みたいで…。