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そろぼちぼっち。  作者: みなみ 陽
短命の人生行路
10/59

利用者

今日の黒い女と会ってからの事は、ぼんやりとしか覚えていない。

色んな奴に、いつものように声を掛けられたり、告白されたりされたけど、頭の中がさっき起こったことでいっぱいで、今起こっている事に目を向けられなった。

いつもは長い授業も、光の速さのように終わっていた。

授業には集中しようとしても、気付けば、朝の出来事ばかり考えていた。

苛立ち、後悔、疑問…それらが脳内で鬩ぎ会う。

「ゆ、結城君…ねぇ、結城君ってば…。」

前から小さな声で、俺をその思考の世界から、呼ぶ奴の声が聞こえた。

はっ、としたら、クラスの奴と先生が全員こっちを見ていた。

あれ?今何時間目だ?何の授業だ?工藤が居るって事は、現代文か!?やべぇ、俺なんもしてねぇ!殺される!って、あれ?プリント?先生が配布した資料的な…?

「当てられてるよ…、その物語の最初から…ここまで。」

ぎりぎり俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声で、優しく山吹は教えてくれた。いい奴過ぎるだろ…、朝の事とか、何も気にしてないのか…?

「おい、結城。まさか、聞いてなかったとかじゃないだろうな?」

先生の目が獲物を殺す目になっている。確かに聞いていなかった。聞いてなかったけど、殺さないで!

「ま、まさか…。ここからですよね、これは、利用者っていうタイトルからですよね?」

ちょっと、立つタイミングがずれただけだし感を出して、その場を必死に誤魔化した。

「ちゃんと聞いとったんなら、さっさと読め。」

良かったー。本当に~良かった~。今の俺は、百獣の王から奇跡的に解放されたか弱い草食動物だ。

さ、さっさと読もう。

「り、利用者、作者不詳。訳 日向 香澄 これは、何時、誰の事だったか、正直言って覚えてない。私にとっては、遊び道具の一つだったからだ。それは、小さな国の統治者だった。権力という大きな玩具を使いこなせない無能。それなのに、周囲の殆どの者達はそれを尊敬していた。しかし、私のような例外も少なからず居た。そして暗殺案が持ち上がった。それに誘われた私は、面白そうだと参加した。しかし、私は、折角だったら私にとって面白く楽しくしたい、彼を遊び道具にしたいという思いが強くなった。」

終わった…。ってか、なんだこの物語は…?物騒過ぎない?

「座れ。」

はい、座ります。座らせて頂きます。

「まず、この物語の主人公について説明する~。この主人公は、どんな奴だ?この段落から読み取れることを誰か発表してみろ。」

この主人公か…、屑だな。その統治者の事を、無能呼ばわりするだけでなく、遊び道具と表現して、それ扱い…人間の底辺だな。

俺はそう考えたが、これを発表しても大丈夫なように言える方法を思いつかなかった。思いついても言いたくない。

周囲も殆どそう考えたのか、場がしーんとして、物音一つしなかった。

誰か、発表してくれ…。俺がそう思った時だった。

「お、山吹。珍しいのぉ、言ってみろ。」

「はい。」

周囲が少しざわついた、俺もびっくりした。まさか、発表するとは…。

山吹は、ゆっくりと立ち上がって発表した。

「どうしようも無い人で、人間として、モラルなどが欠けている人だと思います。でも、私はその人を可哀想な人だとも思います。」

可哀想な人…か。

「なんで、可哀想じゃと思うんじゃ?」

「人を道具としか見ない人は、きっと孤独だと思うからです…。」

そう言うと、山吹は静かに着席した。

「うむ、成る程。もっと深く言って欲しいが…、もう時間じゃ、今日はこれで終わりじゃ。」

眼鏡女子が、号令をかけると、そのきつく縛ってあったような緊張した時間が終わったと言わんばかりに、皆は喋りだした。

先生は、ゆっくりと教室から出て行った。

「結城君、危なかったね。」

まるで太陽の様な笑顔で、こっちに振り向いて話しかけてきた。マジで気にしてないのか…。

「私、気にしてないよ。私のほうこそ変に気を遣ちゃって、ごめんなさい。」

俺の様子から、何かを感じ取ったのか、山吹はそう言った。

「え?あ、おう。」

謝るべきは俺なのに、俺は駄目駄目だ。

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