思われること
こいつは何を言い出すのか。
私は仏御前の方がもちろん好きだ。
だれが捨てられた女を好きだと言うのだろう。
「祇王はその後尼になりました。
……ずっと清盛を思って」
そして後にやって来た仏御前も尼になる。
「……それが?」
「本当に、清盛は祇王を捨てたのでしょうか。
……某には、仏御前を癒すようにとの口実を使いながら、心のそこで祇王を求めたように感じるのです」
ハッとした。
人々は勝手に物語を作った。
ただただ、面白いように、悲劇になるように。
「……某の、室になって欲しい」
それは築山御前だって同じこと。
本当に武田と通じて殺されたのかも知れないし、ただ織田信長の手で転がされるまま殺されたのかもしれない。
築山御前が死ぬことを家康が望んだのかそうじゃないのか、きっと本人以外には分からないのだ。
「きっと、立派な武人になる。
城だってもってみせる」
私のイメージとは違う。
顔だってブサイクじゃないし、むしろイケメンに入る。
嘘が上手な狸じゃないし、逆に嘘が下手そうだし。
「いずれ、某は今川を裏切るかもしれない。
岡崎を取り戻したい」
無性に、泣きたくなった。
「だけど、瀬名姫が欲しい」
私は前世でもこんなに求められたことがあっただろうか。
女子からは男好きと呼ばれ、男子からはビッチ扱い。
本当に思われたことなんて、なかった。
「……よろしく、お願いいたします…………っ‼」
きっと私は今ブサイクだ。
自慢の顔だってぐしゃぐしゃだろう。
きっとこの先死ぬことになってもいい。
今のことだけで私は前を向ける。
戸惑ったような、手が。
ゆっくりと絡み合うことにまた涙がこぼれた。