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君を初めて見る折は
「瀬名姫」
「…………」
もう答える気力すらなかった。
何時もなら愛猫の鈴と日の当たる縁側でする日向ぼっこは楽しいのに。
数正に進められるまま…強引に連れ去られるなか元康とする日向ぼっこはただの地獄だ。
「………君を初めて見る折は 千代も経ぬべし姫小松」
小さな声で聞こえたのは、有名な唄。
仏御前が舞った、清盛への唄。
……たしか、意味は…………。
「…我が君を初めて見るときは、あまりにも立派なご様子なので、私は千年も命が伸びそうな気がいたします」
そうだ。
普通の人が聞けば、仏御前が清盛を思う恋の唄ー……。
「……祇王を、知っていますか」
「…もちろんです」
仏御前が来るまで、清盛の寵愛を受けていた女性。
しかし、仏御前が現れたことで寵愛を失い捨てられた悲劇の人ー……。
「……和歌が苦手なのに、どうされたのですか」
そう、元康は和歌が下手くそだったはず。
気のきく華やかな唄も詠めない男として有名だったし興味も無さそうだったのに。
「某は、仏御前より祇王の方が好きです」