優しい主従
私は人の弱点を見抜くのが結構得意だったりする。
「ビッチ」のステータスでもある。
「婚約を解消してほしいのですが」
「何ゆえでしょうや」
しかし私はこいつが大の苦手だった。
その名前は石川数正であった。
元康の主従でもあり、幼いときは私も何度か世話になった。
あれは椿姫に連れられ山で迷子になっていたときに助けられたのだ。
……一応命の恩人であるため大きな口を叩けない。
「私は今川の姫です。
どうしてそんな私が、人質…城なし子に嫁ぎましょうか」
これが他のやつだったらもっと散々に言っている。
これぐらいに押さえたことを逆に感謝してほしいぐらいだ。
「しかし若は姫様との婚姻を楽しみにしておられまする」
「今川の縁者が欲しいのなら椿姫を用意いたします」
似たような台詞をここ最近で何回も言った気がする。
だがこいつは顔色すらも変えずに笑っていた。
「きっと若とお話になれば、姫様もお気持ちが定まるでありましょう」
…………何故だ。
三河武士は私……築山御前を嫌っていたのでは無かったのか。
最早私の知識では考えられない所にまで来てしまった。
……もう死にたい。
後々殺されるぐらいなら、いっそのこと自殺したい。
切実にそう思った。