私の従兄弟
「瀬名ではないか」
「……氏真さま」
花が咲き誇る今川館で私の従兄弟である氏真さまは今日も蹴鞠をしていた。
のほほんとしているその顔は、いつみても癒される。
「今日はいかがした?
父上ならば今は出掛けておる」
「……そうなのですか」
私が座ったのを見届けると、氏真さまも隣に並んだ。
私より年上とは思えない童顔には心配そうな色が見てとれた。
「……実は、元康どののことでお話があって来たのです」
「元康がいかがした?」
……非常に言いにくい。
義元さまらに甘やかされて育った氏真さまは人を疑うことを知らない。
それに前世では考えられないぐらいに氏真さまと元康は仲が良いのである。
「実は、私の付き人をやめて頂きたいのです」
しかし私は言うしか道がないのだ。
今まで接しないようにしてきた努力が無駄である。
「……私は今川の姫です。
いずれ誰かの元へと嫁ぐ際……元康どのとの噂が立てばお互いに困ります……」
袖で目を押さえながら肩を震わせる。
これも前世から得意な嘘泣きだったけれど、ますます上手くなったという自信があった。
……だけど。
「そんなに元康を思うぐらいに慕っておったのか……。
我が父上に掛け合ってみるゆえ安心せ。
それに今川では以前から瀬名と元康の縁談話も出ておったのじゃ」
……は?
「ち、違います……‼」
「また使いのものを寄越す」
氏真さまー⁉
必死に本当のことを伝えようとするけども、分かったように氏真さまは笑うだけ。
絶対勘違いしてる……‼
私の思いもむなしく、氏真さまに届くことはなかった。