岡崎での暮らし
「奥方様。
外は寒うございますから中へお入りください」
「ええ」
雪こそ降らないが岡崎は寒い。
しかし、季節とは別に私の岡崎での暮らしは思いのほか平穏だった。
家臣の方々からは駿府で付き人だった石川数正を始めとした人たちのお陰で今川の女として見られるどころか逆に着物の件のおかげで妻の鏡として崇められているぐらいである。
また、民からもお陰さまで慕われ、収穫した食料などをくれるため逆に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
そして、最大の難関、於大の方は。
「瀬名殿‼
体調は障りないか?」
これもまた着物のお陰で仲良くなれました。
ご母堂様曰く、自分の高い着物を差し出すほどの民を思う気持ちに云々かんぬん………らしく。
「ご母堂様。
今日も穏やかにございます」
「そうか‼
なら良かった」
こうして訪ねて来てくれるご母堂に慣れてはや数月。
「だが油断は禁物ぞ。
なにしろ妾の初孫じゃ。
立派な子を見せておくれ」
そう、なんと私は妊娠したのである。
後に自害する松平信康だと思うと心が痛むが、私は死ぬことを諦めていない。
それは母子協力して………いや、私が信長にすり寄ってでも切り抜けていく覚悟である。
「男子かの~、女子かの~?
はよう婆様に顔を見せておくれ」
でも、私の思っていた以上に死なずにすみそうである。