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ドラゴン退治の作戦会議

 物語でいうところのドラゴンは、主人公の倒すべき獣としての側面が強い。

 単純な力の象徴でもあるし、事実、ドラゴンの生命力は他の生き物よりも遥かにしぶといので、ある意味、物語が盛り上がるための敵としてはもってこいなのだ。

 ただし、それはあくまでも物語だからこそ通用するのである。

 ドラゴンというのは種族によって様々な性質を有している。

 とある国では飛竜を飼育して、竜騎士なんてものがいると聞くし、位の高い御貴族様なんかは馬車の代わりに竜が篭を引くものさえあるという。

 そんな話に憧れてか、兵士の仲間内で「俺も竜騎士になる!」と何を言い出した馬鹿もいたりする。そいつは後日、竜ではなく大人4人分ぐらいはありそうなオオトカゲを捕まえてきては「俺は竜を捕まえたぞ!」と言って、地を這うオオトカゲに乗ろうとして逆に飲み込まれた時は爆笑したものだ。胃液で服とかが溶けて出た時は、胃が捩れて殺されるかと思ったぐらいだ。

 このように、竜というのは種族によって、俺たちの生活に密接している。

 しかし、それはあくまでも、人を食べない穏やかな竜の種族を竜専門の飼育屋が育てたから成り立っているものなのだ。野生の竜を捕まえる奴は正気の沙汰ではない。

 また、当然のように人を喰う竜だって中には存在する。

 それらの竜に至っては「強い・早い・しぶとい」の三拍子が揃っており、人々を襲った日には、治安を守る兵隊たちが揃って退治に出る命令が下ることもある。

 先ほどの竜騎士になると調子のこいていた兵士仲間は「こいつを捕まえて今度こそ竜騎士に俺はなる!」と勇ましいことを言って真っ先に挑んだわけなのだが、速攻でドラゴンに丸呑みにされて、退治後腹を切り裂かれて胃液まみれに出てきた時は、あまりの臭さと痛ましさに笑えなくなっていた。

 そいつの最後は「俺、竜騎士になるのをやめて、故郷で畑を耕すよ。もう食われたくないし……」と言って兵士をやめたのだった。

 それだけに、ドラゴン退治というのは戦いの花形でもあるのだが、その強さから兵士のトラウマ製造機とまで揶揄されることもあるのだ。

 彼が兵士を辞めていった後など「胃液まみれになりたいのか!」が合言葉となり、真面目に鍛錬に励むようになったのも良い思い出だ。


「つまり、あんたは何が言いたいのよ。ドラゴン退治が不服なの?」

「まさか! そうではなくて、ドラゴンは手強い獣なので、マジョ=リナさんのことは、このヘイ=シめがお守りします!」

「そう。がんばってね」

「はい! ありがとうございます!」


 なんということだ。マジョ=リナさんから応援の言葉をもらってしまった。

 これは是が非でもドラゴンを狩らなくてはならないと、今朝までとは打って変わってやる気が満ち満ちてくる。


「ドン教官。先輩のこと止めなくていいんスか?」

「ボウ=ズよ。覚えておくと良い。ボーイは人を愛することで紳士になるのだ」

「……つまり、止める気ないんスね」

「無論だ。ヘイ=シは調子に乗らせる方がいい仕事をするからな」


 後ろの方でドン教官とボウ=ズが何か話しているみたいだが、耳に入ってこない。

 俺の耳は全てマジョ=リナさんの声を聞くためにあるのだから。


「それでマジョ=リナさんはどうしてドラゴンを退治してほしいのですか?」

「正確には退治じゃなくて。素材収集よ」

「……素材収集ですか?」

「えぇ、そうよ」


 てっきり、ドラゴンに何らかの損害や迷惑が掛かっているからこその退治の依頼だと思っていただけに、素材収集と言われて戸惑った。

 どういうことなのだろう?


「よくわかんないって顔してるわね。目的地に着くまで退屈だし、話たげるわ」


 そんな考えが顔に出ていたのか、マジョリナさんが解説してくれた。


「あなた方は魔女って、普段は何をしているかわかる?」


 ここでわかりませんと言ってはダメだ。

 せっかくマジョ=リナさんが質問してくれたのだ。ここで知的な答えを返すことで、自分の有用性をしっかりと見せつけておかなくてはならない。

 とはいえ、マジョ=リナさんに出会い、俺の中の魔女のイメージは反転した。

 つまり、マジョは普段何しているかなど、容易に想像がつく。


「豊胸運動ですね」

「子供を食べるおっかないババアっすね」

「ミステリアスレディですな」

「あなたたち馬鹿なの?」


 どうやら違ったらしい。

 やはり、魔女というのは凡人では及びもつかないことを行っているのだろう。

 まだまだ勉強が足らないと痛感した。

 そんな俺たちの答えに「はぁ」と呆れたように、マジョ=リナさんはため息をついた。

 よく聞きなさいと彼女は言う。



「魔女は――魔法を研究する存在よ」



 言われてみればもっともな答えだ。

 何故そんなことが思いつかなかったのだろうか。

 きっとマジョ=リナさんが魅力的なせいだ。そうに違いない。


「魔法っていうのはね。言ってしまえば、ただの手段なのよ。魔女は自らの心に叶えたい願いがあって、その願いを叶えるために魔法を研究しているの」


 魔法は手段。

 そう魔女である彼女から言われれば、今までに抱いていた神秘性や特別感が薄れてくる気がする。兵士にとっての剣と鎧が、魔女にとっての魔法に当たるのだろう。


「ただその研究には、色々とお金も掛かるし、希少な素材を使うことも少なくないわ。ドラゴンの素材は魔法を使うときの触媒としては使い勝手が良いのよ。魔法も強力になるし、壊れにくいし」


 だから、手元にない状態だと研究が滞ってしまうのだという。


「ということは、なるべく竜は傷つけずに倒した方がいいんですか?」

「理想としてはね。ただ私も無茶を言うつもりはないわ。倒した結果、採取できる部位があれば十分よ。採取で命をかけるなんて馬鹿げてるわ」


 竜は爪、皮、牙、血、肉など。その諸々が素材として使えるのだそうだ。

 多少は手荒に扱っても問題はないが、マジョ=リナさんは命を優先するという心の優しさに、俺は感銘を受けた。

 そこまで彼女が言われて、怖気付こうものならば男が廃るというものだ。


「わかりました。では一撃で倒すようにします!」

「あなた私のありがたい忠告の何を聞いていたのよ!?」


 なぜかマジョ=リナさんが怒ってしまった。解せぬ。


「あー、マジョ=リナさん。うちの先輩がすんません。あの人はアホなので放っておいていいです。んで、一つ聞きたいんすけど、この辺りの竜っていうと《地竜》でしょうか?」

「そうよ」


 ボウ=ズがため息ながらにマジョ=リナさんに尋ねた。

 この辺りは《竜の渓谷》と呼ばれており地竜が繁殖していると、兵士見習い時代の座学で教わった記憶がある。


「この時期の地竜は若い個体が、一匹で獲物を求めてウロウロすることが多いから、それが狙い目ね。討ち漏らしたら親が出てくるから、確実に仕留めないといけないわ」


 イ=ワルド王国で有名なのは地竜だ。

 この時期というのは、地竜の幼体が成体になって、狩りに出かけるようになる時期なのだ。地竜は他の生き物に比べて圧倒的に強いので、基本群れで狩るということをしない。

 しかも、成体になったばかりなので、成熟しきった個体に比べると、身体はそこまで大きくなく比較的狩りやすいとされている。


「まぁ、私が魔法で補助するから、あなた達は地竜へのトドメと運搬をお願いするわ」

「ふむ。マジョ殿のご忠告はありがたいが、それには及びませんな」

「……どういうこと?」


 マジョ=リナさんが頭を傾げる。

 あまりマジョ=リナさんの気分を害したくない俺であるが、この話に関してはドン教官の意見には完全に同意だ。


「地竜は私たちだけで退治を請け負いましょう。マジョ殿のお力を疑っているわけではないが、急造チームでの連携には不安が残りますので」


 なんだかんだ言いながらも、ドン教官の下でチームを組んで俺たちは働いている。

 通常の任務程度ならば、マジョ=リナさんを頭数に入れて問題ないが、何しろ相手は竜だ。下手にマジョ=リナさんを加えて作戦に組み込んでも、作戦通りに動けるかどうか確認もできていないのだ。

 そんな命に直結することに関しては、簡単には頷けない。

 嫁さん候補のお願いにはなるべく応えたいところであるが、それで死んでしまっては元も子もない。命があってこその物種で子種なのだ。


「私としては特に異論はないけど、大丈夫なの?」

「無論です。ヒメ様の名にかけて力を尽くしましょう」


 胸に手を当てて、ドン教官はヒメ王女の名を出してまで誓う。


「そうですマジョ=リナさん。大船に乗ったつもりで吉報を待っていてください!」

「そうっすねー。まぁ、何とかなるんじゃないっすかねぇ〜」


 無論、俺だってドン教官にいい格好ばかりさせていられない!

 同じく誓った俺であるが、 


「不安だわ……」


 何故かマジョ=リナさんからは不安がられてしまった。

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