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自爆は美学

 呼吸が荒い。手が震える。握っている槍が離せない。

 ギリギリ。まさにギリギリの戦いだった。

 絶対に自分一人だったら五回ぐらい死んでた。

 むしろ、現在進行形で死にそうなぐらい痛みが出てきた。気を失いそうなぐらい全身が痛いし熱い。よくこんなの我慢できたなと自分で褒めてやりたいぐらいだ。

 マジョ=リナから「何かの役に立つかも」と言ってもらった魔法具が役に立った。

 いやもう役に立ったどころか最後の切り札になってくれた。

 『力の護符』に出力調整に失敗した『氷風の魔石』。

 子供のイタズラみたいな罠がうまく嵌ってくれた。力の護符で転んだところに、氷風の魔石で凍らして身動きを取れなくするというイタズラだ。

 それに、力の護符に関してはジュウ=オウの拳の威力の減衰にも役立ってくれた。懐に入れておいた護符がうまいこと発動して力を逃してくれたのだ。

 あれなかったら、その時点で死んでいた。

 それに失敗作の氷風の魔石だが「使う時は最低でも十メートル離れて使うこと!」とマジョ=リナから念を押された理由も納得できた。ジュウ=オウを凍らせて脱出すらさせないとか何あれ怖すぎる。馬車の中で冷風を届けてくれたものと同じだとは全然思えない凶悪な代物だ。

 何にせよ色々あったが――この勝利は全員のものだ。

 ドン教官が鍛えてくれなかったらジュウ=オウと渡り合うことなんてとてもできなかったし、ボウ=ズが坊主頭でなかったら魔女の薬で毛をどうにかしようなんて思いつかなかったし、マジョ=リナの魔法具がなかったら戦うことすら覚束なかった。

 決して俺一人の力で勝ったわけじゃない。


「悪いな。あんたの最後の相手が勇者様じゃなくって」


 あれだけ勇者様への復讐に燃えていたのだ。

 それが、こんな辺境でたかが兵士にやられるとかたまらないだろ。

 ところが、当のジュウ=オウは悔しそうにはしておらず、むしろ晴れ晴れとした顔をしているようにフッと笑って見せた。


「勇者たちは武人ではなかった……」

「ん?」


 突然のジュウ=オウの言葉が、どういう意味なのか図りかねた。

 勇者様方があれだけの戦功を立てているのに武人でないわけがないだろう。


「奴らは……其方たちにとっては勇者なのだろう。しかし、あれは……大きな力を持っただけの子供でしかなかったのだ」


 ――あぁ、そういう意味か。

 マジョ=リナが酒場でお酒を飲む度に勇者様の愚痴をしていたので、多少聞きかじっている。俺みたいな一般人は勇者様を伝聞でしか知らない。

 でも、マジョ=リナは勇者様の人となりを知っていて「勇者召喚されて調子に乗ってんのよ!」と事あるごとに言っていたのだ。

 多分、ジュウ=オウが言っているのは、会った者にしかわからない事に違いない。

 勇者様とは無関係の兵士にはきっとわからないことなのだろう。


「其方たちが最後の相手で良かった。おかげで、我は満足して逝ける」

「そっか」


 立派な武人かどうかは自分ではわからないが、戦った者同士でしかわからないことがある。

 ジュウ=オウは倒すべき敵で、尊敬できる男だ。

 今にも倒れそうな震える脚を気合いで伸ばして直立し、手を胸に当てる兵士としての敬礼で見送ることにした。


「あんたの名は絶対に忘れないよ」

「我もだ」


 最後の別れとしてはこんなもんだろ。

 そして、槍を抜いて最後を見送ってやろうとしたら、


「あぁ、最後に一つだけ言い忘れていた……」

「何だよ。締まらねーな」


 もう槍抜いちゃったよ。

 すると、ジュウ=オウは最後にとんでもないことを言い出した。


「勇者に殺されても復讐を果たせるように……我が死んだら五分後に大爆発を起こす呪いを我が体に掛けておいた……」

「は?」


 ……こいつ今なんて言った?

 死んだら大爆発を起こすって――いやいやいやいやいやいや!!


「これで思い残すことはない……さらばだ……ヘイ=シよ……ぐふっ!」

「ふっざけんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 何が「ぐふっ」だ!?

 土壇場になんて置き土産してやがるんだ、この猫野郎!!

 五分後に大爆発とかどうすればいいんだ。どれだけの爆発規模かまったくわからないが、満身創痍のこの身体で五分で逃げられるわけがない。

 というわけで、こういう時は最後の切り札に頼むしかない。

 すうっと大きく息を吸い込む。


「マジョ=リナァァァァァァ!! 助けてぇぇぇぇ――――――――!!」

「話は聞いてたわよっ!!」


 離れていた場所で戦いを見ていたマジョ=リナが急いで駆け寄ってきた。

 話も聞こえていたようで、事情を説明する必要がなくて助かる。


「あと五分なんだけどどうしよう! どうにかできる魔道具ないっ!?」

「あるわよ!!」

「あるのっ!?」


 すげー! さすがマジョ=リナだ!!

 そんなマジョ=リナは、収納用魔法陣から次々に魔道具を取り出している。あれだけ便利だと思っていた収納用魔法陣だけど、入れた順にしか取り出せないので、急いで出したい時にはすごく不便だなーと今更ながら思った。


「あったわ!」


 マジョ=リナが取り出したのは、収納用魔法陣と似た感じの布だ。

 ただし、布の大きさは収納用魔法陣と違ってかなり大きく、ところどころに魔石なんかも埋め込まれている。素人目に見ても金の掛かり具合と魔力の大きさが違うのがわかる。


「それでその魔法具何なの!?」

「転移魔法陣よ!」


 これには、さすがに自分の耳を疑った。


「て、転移って……お伽話にしか出てこないような伝説の魔法じゃ……」


 別の場所に一瞬で転移する転移魔法。

 誰もが夢見て、誰もがそんなことは不可能だと笑い飛ばすような伝説級の魔法だ。


「所詮は勇者召喚魔法陣の下位互換よ!!」

「そ、そうですか……」


 なのに、あっさりとマジョ=リナは下位互換だと言い放った。

 おかしいな。俺の常識が間違っているのだろうか。

 俺、もしかしなくてもとんでもない女に惚れてない?

 ……まぁ、助かるみたいだし別にいいか。


「ただこれちょっと問題があってね。自分が行った場所しか転移できないのよ」

「えーと、それに何の問題が?」


 それこそ人里離れた場所とかに転移させればいいだけではなかろうか?

 別に大した問題とは思えない。


「私、召喚されてから王国と自分の隠れ家しか知らないのよ。あと今回の旅で訪れたところぐらい。こういう時、引きこもりってダメよねー」

「は?」

「ねぇ、どこに転移させたらいいと思う……?」


 不安そうに額に汗をかきながらマジョ=リナが聞いてきた。


「と、とりあえず、人のいない場所は?」

「知らないわねー。私の隠れ家は研究結果あるから絶対に駄目だし」


 駄目じゃん。

 人里離れたところは知らなくて、人のいる場所しか知らないとか。

 これで適当に転移させた日には、魔王軍どころか王国に追われる身となってしまう。


「というわけで、ヘイ=シ。場所の指定はあなたに任せたわ!」

「そこで俺っ!?」


 そんな大役をいきなり振らないで欲しい。

 しかし、マジョ=リナ以外で適任は他にいない。

 ……ええい、男は度胸だ。何とかしてやる!


「ば、場所の指定ってどうすればいいんだ!?」

「できるだけ具体的に、その場所を頭に思い浮かべるだけでいいわ!」


 それだけなら簡単そうだが、具体的と言われるとさすがに困る。

 短い時間制限の中で他人に迷惑がかからず具体的に思い描けられる場所というと――たった一つだけあった。


「あった。絶対に迷惑の掛からない場所が!」

「じゃあ、そこを思い浮かべて! すぐに転移させるから!!」


 マジョ=リナは転移用の魔法陣の布をジュウ=オウに覆い被せた。

 俺はその布に手を当てて場所を思い浮かべる。


「転移開始!」


 その言葉とともにマジョ=リナは魔力を込めた。

 銀色の光が魔法陣から放たれ――ジュウ=オウの亡骸が消えた。

 少し待っても大爆発の衝撃や音もしない。

 成功でいいのだろうか?


「ふぅ、成功したわ」

「終わったの?」

「えぇ。魔法陣だから魔力込めるだけだしね」


 やけにあっさりと終わった事に実感はわかないが、どうやら成功したようだ。

 これでようやく腰を落ち着けて休められる。

 同じくマジョ=リナもへなへなとその場で座り込み俺の方に目を向けた。


「それでどこに転移させたの? 山? それとも海?」

「いや、どちらでもないよ」


 マジョ=リナが場所を聞いてきたので答えた。

 悪いがどちらも不正解だ。兵士としての行軍で行ったことは確かにあるが、訓練に明け暮れたせいで明確な想像ができなかったのだ。


「はぁ? じゃあどこにしたのよ?」


 俺がすぐさま明確に想像ができる場所で、絶対に迷惑の掛からない場所なんて決まっている。



「俺の故郷の村だ」

冒頭に戻ってみてください!笑

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