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ジュウ=オウとの対決

「魔王軍幹部のジュウ=オウ殿とお見受けする。私はイ=ワルド王国で教官をやっているドン=エムという者。不躾であるが一つ質問がある」

「その態度や小気味良い。よかろう。質問するがいい」


 俺たちの小隊の責任者としてドン教官が毅然と前に出た。

 修羅場を踏んだ数が違うのか、未だ俺やボウ=ズは平静な状態とは言い難い。


「このゼンセン都市の破壊は貴方の仕業であるか?」

「如何にも。我の意志で破壊と蹂躙を尽くした」

「何のために?」

「復讐のために」


 その一言で俺たちは察した。

 マジョ=リナの予想が当たっていた。

 ジュウ=オウは生きていて、部下たちが殺されたことで復讐に燃え、ゼンセン都市を破壊したに違いない。


「グルル。汝等はどうやら何も知らずにこの都市に入ってきたようだな。勇者を連れて来たというわけではないということか」

「ふむ。私たちはゼンセン都市が解放されたと聞いて来ただけですからな」

「なるほど。勇者たちが来るまでまだ時間が掛かりそうか」


 つまりは、勇者様をおびき寄せるためにゼンセン都市を破壊したというわけか。

 俺たちはそうと知らず、まざまざと猛獣が住まう都市に足を踏み入れてしまったのだ。

 だが物は考えようだ。

 勇者様が狙いだということは、俺たちには一切合切関係はない。

 うまくここを切り抜ければ無傷で帰れるかもしれない!


「では勇者たちが来るまでの間に身体が鈍ってもいかんな。汝等で遊ぶとしよう」


 そんなわけがまるでなかった。

 遊ぶって……あんな人どころか牛すらもペロッと平らげそうな獅子と?

 絶対に死ぬ自信がある。


「総員戦闘準備!!」


 ドン教官の怒号が飛んだ。

 逃げ出したくなるような恐怖とは裏腹に、反射的になるまで染み込んだ訓練の成果で、俺とボウ=ズはすかさず得物を手にする。

 次の瞬間には、ドン教官の後ろにぴったりと寄り添うように俺たちは走った。


「グルアアアアアアアアァァァァァァァ――――――――!!」


 耳をつんざくような雄叫びに一瞬竦みそうになるも、目の前にいるドン教官は止まらない。やることは地竜の時と同じだ。

 ドン教官が守って、ボウ=ズが攻めて俺が上から攻める。大丈夫だ。訓練で何回もやったことの繰り返しだ。頭ではなくて身体が勝手にやってくれる。

 ジュウ=オウの前足が振り上げられ、ドン教官は盾を掲げて前足を止めた。


「ぐぬうっっっっ!!」


 筋肉が血管が浮き出るほど膨張し、これでもかと歯を食い縛ってドン教官は耐えた。

 瞬間、俺とボウ=ズはドン教官の前に出る。


「ウオリャアアアアアアァァァァァァァ――――――――!!」


 負けじとこちらも大声を出して突貫する。タイミングは完璧だ。

 槍を両手に持ってジュウ=オウの脳天を打ち抜く勢いで突き刺した。

 どんな生き物だろうと脳天を撃ち抜かれて無事なわけがない。


『ハァ!?』


 そう思っていたはずなのに、俺とボウ=ズの二人とも素っ頓狂な声を上げた。

 ジュウ=オウの頭の上。

 俺は確かに槍を突き刺したはずが――槍が毛皮に阻まれて少しも刺すことができていなかった。それはボウ=ズも同じようで、足を斬ったはずなのに薄皮一つ切れてすらいない。

 ……冗談だろ?

 硬い鱗を持っている地竜ですら、全力で斬るなり刺すなりすれば、ダメージを与える程度に俺たちは鍛えている。なのに、ジュウ=オウには一切の攻撃が通じていない。

 つまりは――俺たちが何をやろうとも、ジュウ=オウの倒すことはできないことを意味している。


「それで終わりか?」


 子供の児戯を許す大人のように、ジュウ=オウは言った。

 まずい。まずい! まずい!!

 ジュウ=オウが見下すように構えていたのは、この毛皮による防御に自信があるからか。斬撃はおろか刺突すら防ぐ毛皮。毛皮だから打撃による衝撃も防ぐだろうからドン教官の馬鹿力も期待はできない。

 万事休すだ。


「ならば、これで終わりに――むっ」

「我と契約を交わせし水精霊 我は其方の助力を願う 願うは水の調べの詠 願うは白き世界への誘い 猛き獣を白の世界に閉じこめよ!」


 もう終わりかと思っていたところに、マジョ=リナの魔法の詠唱が聞こえた。

 彼女の魔法が発動し、周囲のすべてが白の世界へと変わる。

 目の前が白い靄に包まれているが――これは霧か?

 俺の目の前にいたはずのジュウ=オウの姿すら見えないほどの濃霧が俺たちを包んでいる。


「一旦退くわよ!!」


 マジョ=リナが声を張り上げた瞬間、弾かれたように俺はジュウ=オウの頭の上から飛び去った。とはいえ、この濃霧の中どこに逃げればいいのかわからない――と思ったら、俺の目の前の霧が薄く割れた。

 ――この先に進めということか。

 どういう理屈かはわからないが、マジョ=リナが仲間にはわかるように魔法を操作してくれているに違いない。

 直感に従って俺は霧の中を全力疾走する。

 さほど時間もかからず目の前の霧が晴れて元の廃墟の光景が広がった。

 その先にはマジョ=リナが杖を持って構えているのが見えてホッとした。

 それから数秒もたたずにドン教官とボウ=ズも霧の中から出て合流できた。


「ハァ、ハァッ……! た、助かったよマジョ=リナ」

「まだ安心できないわよ。あの霧の結界長い時間は保たないから。せいぜい五分が限界って言ったところね」

「……マジっすか」


 短すぎる時間にボウ=ズが絶句した。

 五分。あの巨大な生き物から逃げ切るにはあまりにも短い時間だ。

 となれば、道は一つだ。


「ドン=エム。時間がないから早速だけど対策をお願い」

「承知。二人とも手応えはどうだった?」


 数秒たりとも無駄にできない最中、簡潔に俺らは先ほどのやり取りを報告する。


「俺の全力で打ち込んだ槍が毛皮に阻まれました」

「同じくっス」

「多分ですが、ドン教官の打撃でも毛皮に衝撃を吸収されて終わりです」

「ふむ、攻撃を無効化するほどの固く柔軟性の高い毛皮か。……厄介だな。まずは、それをどうにかせねばなるまい」


 頭を働かせろ。何でもいい。

 具体的な案は浮かばなくても、とりあえず思いついたことから片っ端から口にする。


「効果がありそうなのは炎で焼くとかですか?」


 一番単純な火計を提案する。単純ゆえに効果は高いと思う。


「火種はともかく、あれを焼き尽くすだけの油はあるか?」

「あー自分が積み込みした時は、そんな大量の油積み込んでないっスね」


 ドン教官の問いにボウ=ズが答えた。

 荷物の積み込みを担当したのは俺とボウ=ズだ。どこをどう記憶をほじくり返しても、あんなでかい生き物を焼きつくすほどの油など積んでいない。


「そうだ。マジョ=リナの魔法はどうかな?」

「期待されているとこ悪いんだけど、さすがに即興じゃ無理。魔石と魔法陣の力を借りて増幅しないと、あんな巨体燃やしきれないわ。しかも、準備に日単位で時間が掛かる」


 魔法というものは万能でも何でもない――ということは馬車の中でマジョ=リナから教えられたことだ。マジョ=リナは基本的に戦闘を得意にしていない。むしろ、苦手だと言っていた。

 だから俺たちのような兵士が体を張って戦うし、その戦いを楽にするための助力をするが、いくら何でも魔王軍幹部を相手にする準備など想定していない。

 俺たちの間に沈黙が流れた。


「くそ! あの毛さえどうにかできれば、どうにかできるのに!!」

「そうっスねー。あの毛さえ消えてくれればまだ戦えるんスけどねぇ……」


 兎にも角にもジュウ=オウを守る毛皮が無くならないことには、対等の戦いの舞台にすら上がれない。考えろ。考えるんだ。何かないか。ジュウ=オウの毛をどうにか出来る手段は――あれ、そういや最近毛について何か言っていたような。

 雷のようにハッと閃き、俺とマジョ=リナは同時にボウ=ズの頭に注目した。

 そして示し合わせたようにニヤリと笑い合う。

 

「毛の問題なら――どうにかできるかもしれないわね」

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