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旅の準備と人知れぬ苦労

「さーて、それじゃ今日から早速魔法の素材集めに出掛けるわよ」

「はい!」


 朝早くに城門前にて待ち合わせをして、俺たちは集合した。


「それでマジョ=リナ殿。どこへ向かう予定でしょうか?」

「ドン=エムは勇者達が魔王軍幹部を倒したことは知ってる?」

「無論ですとも」


 俺たちは酒場で話を聞いていたが、ドン教官の方も既に情報を入手していたようだ。


「なら話が早いわね。勇者達が倒しに向かったのは、魔王軍幹部のジュウ=オウが支配していた鉱山地域なのよ。今まではそこの鉱石が手に入りにくかったんだけど、解放されたから手に入れておきたいのよね」


 バッとマジョ=リナは王国全土が描かれている地図を広げた。

 どれどれと俺たちはその地図を眺める。


「まず北にあるチュウケイ都市に向かうわ。さらにそこからゼンセン都市に行って魔法の触媒に使えそうな鉱石を仕入れに行くわ。希少な鉱石がなければ鉱山に入ることもあるかもしれないから、そこらへんは臨機応変に現地に到着してから考えましょう」


 ゼンセン都市までの道のりは全て陸路になる。

 魔王軍との戦いは長期化しており、魔王軍の侵略を前線で止めるためにチュウケイ都市ができたという歴史がある。補給などを考えるとチュウケイ都市で一度物資を補給するのが旅の基本ともなっている。


「あれ? ドン教官。そういえば、ゼンセン都市って魔王軍の侵攻を食い止める拠点の都市だから、許可がなければ入れなかったんじゃないんですか?」


「いや、魔王軍の討伐が終わったので規制は緩められたと聞いた」


 戦闘に巻き込まれる危険度が高いのと、余計な揉め事を起こさないため、一部の商人などしか入られないようになっていたのだが、魔王軍幹部を倒したことで、あの地域一帯が解放された。経済的な効果を考えて規制が緩められたとのことだ。


「そういうことよ。早めに動いていけば比較的安めに鉱石が手に入れることができるわ」

「ふむ。そういうことでしたら特に異論はありませんな」


 旅の目的地が決まったので、俺たちは旅の準備を進めた。

 ヒメ様からマジョ=リナの研究補助費が出ているので、城の補給庫にある物資を馬車に積み込んでいる。主な荷物としては日持ちのする食料と水になる。


「ドン教官。荷物の積み込み終わったっス〜」

「うむ、ボウ=ズよ。ご苦労であった」


 手続きはドン教官が担当し、荷物は俺とボウ=ズで積み込んだ。

 マジョ=リナにこんな力仕事はさせられないので待ってもらっている。

 そして、俺たちの作業が終わった頃を見計らって、マジョ=リナがやってきた。


「さて、それじゃ私も準備しますか」

「もう荷物の積み込み終わったからマジョ=リナがやることなんてないよ?」


 そのために頑張ったのだから。

 この薄っすらと流れる汗を見て男らしさを少しでも感じてもらいたい。


「いいから馬車の中が見えないように、幕を閉じてちょうだい」


 とりあえず、彼女の言われるがままに馬車の幌の幕を閉じた。これで外からは覗けないようになった。マジョ=リナは自分用の荷物の中から一枚の布を取り出す。もはや見慣れた収納用の魔法陣が描かれた魔法具だ。


「あぁ、なるほど。収納用の魔法陣で荷物を収めるんだ」

「そうよ。これなら荷物が減って馬の負担減るでしょ? ヒメからは便利な魔法を無闇に誰かに見せると問題だからって忠告されてるのよ」


 馬車に積み込んだ荷物があれよあれよと減っていく。

 入れたもの順にしか取り出せないという点さえ目を瞑れば、かなり便利な魔法だ。


「さて、それではそろそろ出発するぞヘイ=シ――むっ?」


 荷物を全部収納し終わったぐらいにドン教官が馬車に入ってきた。馬車の中の荷物が消えていたことに目をパチパチとさせ、収納用の魔法陣を見て納得したように頷いた。


「マジョ=リナ殿。魔法陣を使うことは反対しませんが、せめて空箱を馬車の中においてもよろしいですかな?」

「あら、どうして?」

「馬車なのに荷物がなければ不審に思われますぞ」

「あぁ、確かにそれもそうね。そこは任せるわ」


 言われてから俺も気づいた。

 確かに馬車なのに荷物が一つもなければ、かなり不審でしかない。


「えーと、後はこの護符を馬車の四隅に貼っておきましょうか」

「マジョ=リナ。これは?」


 四角い紙に文字や図形みたいなものが描かれている。何となくマジョ=リナが使っていた収納用の魔法陣みたいだなと思ったが、何に使うものかが全くわからない。


「力の護符よ。まぁ、大雑把に言えばこれも魔法陣の一つよね。これを貼っておくと貼った物が上に引っ張られる効果があるのよ」

「……それだけ?」


 それが何の役に立つのだろうか?

 収納用魔法陣のようなわかりやすさがないので、今一効果の程がわからない。


「馬鹿ね。考えてもみなさい。馬車自体の重みと人間が乗っているのよ。それがだいぶ軽くなるだけでも馬の疲労だって軽くなるでしょ」

「なるほど。さすがマジョ=リナ!」

 

馬車を引く馬だって疲れる。疲れが少なくなれば、それだけ一日に進める距離が長くなるのも当然だ。本当に魔法具って便利だとマジョ=リナを見直した。


「……マジョ=リナ殿。この護符とやらですか。ヒメ様に報告していた魔法具の一覧で見た覚えがないのですが?」

「あれ言ってなかったっけ? 前にヒメに頼まれたから作った物だけど――あ、そうか。収納用の魔法陣ができたから、そっちしか報告してなかったわね」


 ごめんなさいとマジョ=リナがさらっと言った。

 召喚用の魔法陣の傍で、マジョ=リナは独自に作成した魔法具をヒメ王女に納品している。この護符はその一覧から漏れていたようだ。

 まぁ、どう考えても収納用の魔法具の方が重宝されそうなので、マジョ=リナがそう思っても仕方があるまい。それに反してドン教官の眉間に皺が寄っているように見えたが、何か問題があるのだろうか。


「収納用の魔法陣は確かに便利なものですが、問題点も指摘されていますので、おそらくこちらの護符の方が重宝されると思いますぞ」

「へぇ、そうなの。収納の魔法具は個人で使う分には問題ないんでしょ?」

「無論。マジョ=リナ殿が作ったものですので、それに関しては問題ありません。ただ、便利すぎる魔法具を世に広める前には、前もってヒメ様の許可を取るようにお願いしたいと思っております。あと他にも報告が漏れているものはありませぬか?」


 念には念を込めてドン教官が聞いた。

 マジョ=リナは手を頭に当てて「う〜ん」と思い悩んでいる。


「完成品は報告した通りだけど、試作品だったらこういうのもあるわよ」

「一応見せていただいてもよろしいでしょうか?」


 俺も興味があったので彼女が取り出すものを見た。

 翠と蒼が混じったような色の宝石だ。


「ヘイ=シ。これを馬車の天井につけてもらってもいい?」

「任せて!」


 受け取った宝石を縄で縛って天井に吊るした。

 すると、


「あれ。なんか涼しくなった?」


 心なしか宝石から冷たい風が吹いてきて涼しくなってきた。

 いや気のせいじゃない。どんどんと風が強くなってきて馬車の中が涼しくなった。


「簡単に言えば涼しくする魔法具よ。氷と風の魔石を合成させたものよ。今の時期だと馬車の中の空気が暑くなるのと匂いがこもるのが嫌だから作っておいたわ」


 さらりとマジョ=リナは言った。

 嫌だから作ったって、魔法具ってそんなポンポンと作れるものなのか?

 いやいや、そんな簡単に作れたらもっと俺たちの暮らしは便利になっているはずだ。


「これは素晴らしいですな。試作品ということは何か問題でも?」

「魔石を合成しているから魔力が結構必要になるのと、丁度良い出力に安定させるのが難しいのよ。とても完成品だなんて言えないわ」

「魔法のことは門外漢なので詳しいことはわかりませんが、それでしたら氷と風の魔石を別々にしたらよいのでは?」

「氷ができてから風が吹くせいで床がベチャベチャに濡れちゃったのよ。合成させないと冷風にならないのよねー。まだまだ改良の余地があるわ」

「ふむ。そういうことでしたか」


 魔法具作りにも色々と苦労があるようだ。

 そういった失敗のあれこれを乗り越えてできたものが、ここにあるのだ。

 まったくマジョ=リナの姿勢には頭が下がる思いだ。

 ――と、話し込むのも楽しいが、陽がそろそろ真上に登り始めてきた。


「ドン教官。難しい話も良いですけど、そろそろ出発しませんか?」


 いい加減出発しないと野宿になってしまう。チュウケイ都市には付かなくとも、村は途中途中に存在するので、今日はそこで一泊する予定だ。


「おぉ確かにな。いやはやマジョ=リナ殿の話は大変ためになりましたぞ」

「いいわよ別に。どうせヒメから私の魔法具の使用感を試すように言われてるんでしょ? 私としては報告の手間が省けるから助かるわ」

「ははは。マジョ=リナ殿には敵いませんな」


 ドン教官が髭を撫でながら苦笑した。

 ヒメ王女からそんな仕事も頼まれていたのか。俺だったら「へぇー」ぐらいの感想しか思いつかないので、これからもっと勉強しようと誓った。

 ヒメ様のためでなく、マジョ=リナの気を引くために。

 そして、俺たちは馬車に乗って出発した。

 御者台には下っ端のボウ=ズが座り、それ以外は荷台に乗っている。


「でも、さすがマジョ=リナ。俺こんな快適な旅初めてだよ!」

「ふふん。私がいる間は旅の快適性だけは保障してあげるわ」


 乗ってみると驚くほどに涼しく、馬車にありがちな匂いも感じない。

 この時期は暑いのでいつも背中に汗をかいているのに、全然そうならない。


「あの〜マジョ=リナさん。荷台だけじゃなくて御者台の方にも冷風欲しいんスけど?」


 ヒョコッとボウ=ズがこちらに顔を出して言った。

 さすがに御者台までは風が届かないようだ。


「ボウ=ズの頭は十分涼しそうに見えるから大丈夫よ」

「ちょっ、そりゃないっすよ!?」


 あははと俺たちは笑って旅を楽しんだ。

 和気藹々としている中、ドン教官は難しい顔をして「ヒメ様の気苦労も大変なものだな」とブツブツと言っていたが、便利で快適な旅ができるのだから、そんな難しく考えることはないと思うんだけどなぁと、俺は能天気にそう思った。

自覚のないマジョ=リナ。

無邪気に喜ぶヘイ=シ。

苦労するドン=エム。

旅の準備一つでも色々と大変な思いをするということですね。

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