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異世界勇者がチートな理由

 訓練を開始してから約二ヶ月ぐらい経過した頃だろうか。

 この世界の常識にも慣れつつあり、拙いながらも魔法具なしでも話が可能になり、文字の読み書きもできるようになってきた。

 そこで、私たちは教導をしてくれていた先生達から専門課程として、それぞれの長所を伸ばしてみないかと提案された。


 例えば、剣勇気ならば本格的に剣士としての道に絞って訓練するというものだ。

 確かに勇者だからといって全員が同じことをできる必要はない。

 ということで、私たちはそれぞれの長所を伸ばすことになった。

 ゲーム的に言えば、ジョブを割り振るみたいなものだ。


 剣勇気は、そのまま本人の強い希望により剣士になった。

 化野学は、高校時代の経験を活かして錬金術士と軍師の才能を伸ばすことにした。

 白滝味見は、未知なる味を求めたいとのことでトレジャーハンターとなった。

 音尾奏は、音楽の才能を活かして吟遊詩人となった。


 一部、魔王軍と戦うにあたってそのジョブで大丈夫なのかと聞いたら、トレジャーハンターは斥候や未知の土地で活動するのに必要とのことで、吟遊詩人は魔法具の楽器を使用することで魔物を操ったり味方の力を上げることもできるとのことだ。

 残りは私だけになり、どのジョブにするべきか悩んだ。

 私はあの男子組のような特異な才能はない。せいぜいが勉強が好きなぐらいだ。そこでピンときた。召喚された魔法陣がどのようなものかわかっていないのならば、私がそれを調査解析すればいいのだと。


 ただ先生達には、馬鹿正直に異世界に帰るために魔法陣を研究したいと言うわけにもいかないので、魔法具とかに興味があると伝えたところ、魔導士になったらどうかと提案された。女だから魔女ですねと笑って言ったら、魔女は不吉な存在として象徴されているのでとんでもないと言われた。

 どうやら、この王国では魔女と魔導士は明確に区別されているようで、正直私としてはどっちでも良かったので適当に聞き流した。

 魔女でないなら魔法少女でいいじゃないと、一瞬どうでもいいことを思いついたが、高校生で魔法少女というイメージが許せるのはアニメの中だけだ。

 なので、喜んで私は魔導士として専門的に魔法を学ぶことにした。


 そこから先、私は魔法陣や魔法具について研究を重ねた。

 異世界に帰りたい一心から、私は夜も惜しんで勇者召喚用の魔法陣について調べた。

 全容まではわからなかったが、幾つか判明したことがあった。


 一つはどうして私たちが召喚されたのかということだ。


 これは召喚時の条件付で、召喚先の世界で人が多い地域の座標を検索し、そこから肉体的に頭脳的などの能力面で優秀な人間を選択するというものであった。

 判明してみれば極々当たり前の条件であった。

 どうして日本人のみが召喚されたのかが不思議だったが、これに関しては完全に偶然だということが、調査結果から明らかになった。


 もしかしたら、諸外国の大都市の可能性もあったというだけのことだ。


 どうせなら人類全体から選択すれば良かったのにと思うが、そうなると選択範囲が膨大になり、召喚時の魔力も膨大になると共に優秀な人間を検索する数が億単位となって、召喚するまでの時間が年単位になる可能性がある。

 肉体的かつ頭脳的に優秀な点でいえば、召喚された面々は才能がずば抜けているので納得できる。私や化野などは肉体的にはあまり自信がないので頭脳面で選出されたのだろう。欲を言えばもう少し年上で経験豊富な人が選ばれてほしかった。

 そして、勇者召喚における一番重要なことが判明した。

 


 召喚された者には<天からの贈り物>が授けられる。



 端的に言い表せばチート能力の付与だ。

 全能力の底上げに各々の特色に合わせた特殊能力など、至れり尽くせり大盤振る舞いののチートさだ。

 この時の私の気分がわかるだろうか。「ははは」と力のない空笑いしかでなかった。

 つまり、勇者召喚とは『勇者を召喚』するものではない。

 召喚された者にチート能力を与えて『勇者にする』召喚だったのだ。

 だったら。


 そんなことだったら――私じゃなくて良かったじゃないか。


 もっと夢見がちで、愚かで、純粋で、強かで、人生に飽いていて、リア充で、オタクで、スポーツマンで、頭が良くて、正義感が強くて、悪意のみで生きていて、違うどこかで生きていたいと願った奴なんて一杯いるだろうに。


 どうして。どうして私だったのだ。


 私は元の世界が好きだ。大好きだ。

 あの文明的でゆったりとした時間で、のんびりと勉強して本を読んで生きていければ十分に幸せだったのだ。満ち足りていたのだ。


 帰りたい。帰りたい。帰りたい!!


 私はこの日初めて――異世界に来てから声を上げた泣いた。

 他の召喚者達にはチート能力が与えられたことを教えた。

 教えた理由は、さっさと魔王を倒して帰りたいと思ったからだ。

 伝えると、確かにこの世界に来てから身体能力の向上は著しく、頭の回転も早いとの実感はあったようで、私もそれは感じていた。特殊能力に関しては、互いの切り札として口外しないことにした。いずれバレることもあるだろうが、下手に教えて敵に伝わる可能性を少しでも下げるためだ。


 召喚されてから半年後、先生達からは戦場に出て問題ないとの太鼓判を押された。

 勇者のお披露目とあって、王国に攻め入っていた魔王軍の部隊と戦うことになった。

 デビュー戦というのもおかしな話だが、この時の私は不思議と恐怖感がなかった。

 それ以上に元の世界に帰りたいという願いが強く、早く戦いを終わらせることしか考えてなかったのだ。

 専門課程に進んだことで、彼らとの付き合いは薄くなっていた。そんな暇があるなら、私は少しでも魔法陣の研究をしていたからだ。

 だから、召喚者達がどれだけ強くなったのか知らなかった。

 そして、私は見た。見てしまった。

 


 勇者として召喚された人間達の――チート的なまでの強さを。


 

 剣を振るえば魔物を両断し、魔王軍との戦いでは見事に騎士を采配し、曲を奏でることで幻想を魅せ混乱させ、魔王軍の部隊の情報を精密なまでに把握し、最終的には魔王軍の部隊は一体残らず殲滅する結果となった。

 無論、私も魔導士として戦いに役立ちそうな魔法具を与え、後方支援として魔法を使って戦いに貢献していたが、正直彼らの無双っぷりにドン引いていた。

 いやいやいや、物は考えようだ。

 召喚用魔法陣の研究にも行き詰まりを見せていたので、このまま当初の目標である魔王を倒すことは意外と早く達成できそうだ。


 私たちの初陣は大成功に終わり、この戦いを経て勇者達の輝かしい実績を積めた。

 それにより、私は王国に対しある提案をした。

 勇者パーティによる――魔王の討伐だ。

 少数精鋭による強行軍で魔王が居を構える都に乗り込み、最速最短でこの戦いを収める提案だ。恐らく、これが最もお互いの理に適うはずだ。発想としてはロールプレイングゲームからきている。これだけの力を勇者が持っているならば、力の差のがある騎士達を無理に連れていく必要がない。

 この提案はきっと受け入れられる。

 そう私は思っていたら――王国のお偉方は単独討伐について難色を示した。

 どういうことかと尋ねたら、彼ら王国が望んでいるものは『平和』なのだという。

 さらに詳しく話を聞いた。


 彼らの魔王討伐というのは最終目標であり、目先の目標ではなかった。短期的には魔王軍に侵攻された領土の解放、および、民の生活の向上なのだ。

 それには『異世界勇者』という存在はうってつけであり、利用しない手はない。

 ようやく私は王国との思惑にズレがあることを自覚した。

 目標は同じでも優先事項がまるで違っていた。

 こうなると魔王討伐の進め方の速度がまるで違ってくる。意見の擦り合わせをする時間すら惜しい事態なのにどうしたものかイライラしていたら――はたと気づいた。


 意見の擦り合わせをする必要などないじゃないか。


 こうまで力をつけたチート能力を持った勇者がいるのだ。

 王国軍のバックアップが無くなるのは些かばかり惜しいが、こうなっては仕方がない。

 私は勇者達に元の世界に帰るために魔王討伐の旅に出ようと言った。

 このままではいつ元の世界に帰れるかわからない。私たちの能力があればできる。他にも色々言ったような気がするが、大まかにはそんな感じのことを言ったはずだ。

 なのに、私と同じ召喚者達は――全員が反対した。


 曰く、本物の魔物と戦えるなんて夢のようだ。

 曰く、現実で軍師として采配を振るえるなんて夢のようだ。

 曰く、異世界の未知なる食材があるなんて夢のようだ。

 曰く、楽器が力を持つ世界なんて夢のようだ。


 どいつもこいつもチート能力を得て、魔法と魔物が存在するこの世界で生きていてもいいと言い出す始末だ。

 それに、王国に住む民が虐げられるのを見るのは忍びない。苦しんでいる人たちがいるのだから、まずはそこから助けるべきだと主張された。

 ようやく、ここにきて私は理解した。

 元の世界に早く帰りたいと思っているのは――私だけだった。

 無意識に彼らは同じ召喚者として同じ立場にある以上、仲間だと思っていたのだ。元の世界に帰りたいものだと無邪気に思っていたのだ。

 でも違った。全然違った。


 彼らは――仲間じゃなかった。


 彼らはどこまでも『主人公』で『勇者』だったのだ。

 それから何を喋ったのかもう覚えてすらいない。

 ただただ悲しかった。心が折れて、勇者達とは袂を分かって、私は一人の時間が欲しく自室に引きこもった。

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