テンプレすぎる異世界召喚
舞城リナ視点です。
召喚される直前、私は高校の図書室で勉強をしていた。
元々、勉強することが好きだったのと図書室という本に囲まれた静かな環境は、私の好むところであった。高校一年生で部活も入っていなかったということもあり、自分の好きなことを調べて、勉強するという生活スタイルが性に合っていた。
人付き合いはそこまで得意ではない。
相手が男子であっても女子であっても同じように付き合うのが難しく、それ以上に鬱陶しく感じ始めた年頃であった。
容姿はそれなりに良いと自分でも思っている。
男子からは告白シーズンともなれば、呼び出されることが多かった。
私は活発な方ではなく、どちらかといえば物静かな文学少女という分類になり、その系統を望む男子の好みに合っていたのだろう。
そのせいで女子からは嫉妬を買うこともあったし、クラスの中心的な派手な女子からは敵視されていた。私にソコソコの社交性があり、どこかの女子グループに属していれば、ここまでハブられることもなかったのだろうが、残念ながら私の精神性はその程度で揺らぐこともなく、むしろ、嬉々として静かな環境に追いやられたことに喜びさえ感じていたのであった。
順風満帆とは決して言いがたいが、それでも高校生活における自分の地位が確立し始めてきて、このまま好きに自分の勉強ができると思っていた時のことだった。
足元に突如魔法陣が発現して――私はイ=ワルド王国に召喚された。
わけがわからなかった。
目の前が光に包まれて、夕方の図書室の光景がグルグルと蜃気楼のように消えて行った時は、白昼夢でも見ているのかと思った。いや、白昼夢の方が良かった。夢は覚めれば悪夢で済むが、現実は目が覚めても泡のようになくならないのだから。
召喚された時、私の他にいたのは四人の男子達だった。
年頃は私と同じぐらいだ。四人とも私のように呆然とし、どういうことなのかと狼狽していた。その男子達こそが、今では勇者と持て囃されている者達だ。
同じように混乱している人間がいたことで、私は逆に冷静になれた。
女は土壇場でこそ度胸があるように、私はどうやらそのタイプだったらしい。
グルリと周りを見渡す。
一片の汚れもない白い壁には彫刻が施されており、芸術的ながらも神秘的な雰囲気は荘厳の一言に尽きた。ステンドグラスから差し込む日差しと蝋燭の光に包まれた部屋は、諸外国にあるような教会の礼拝堂を思い出させた。
そして、私たちを取り囲むように白銀の鎧を身につけ剣を構える騎士達がいて、その騎士達に守護されている王冠とマントに包まれた人がいた。
この時、呑気に私は「絵に描いたような王様だな」と思っていたが、その通りイ=ワルド王国の王様その人であった。
この時点で大体私は見当がついた。
光る魔法陣。見知らぬ光景。王様みたいな人。
これだけキーワードがあれば、現役高校生でそれなりにファンタジー小説も読んでいた私にはピンとこないわけがなかった。
もしや、これはいわゆる一つの異世界召喚なのでは?
……いやいや、そんなわけがないだろう。
頭にちらつくその単語を、必死に否定したいのに現実はそう甘くはなかった。
いや、ファンタジーは現実に勝った。
私たちの前に、神官がうやうやしく耳飾りを持ってき何かを言った。
私は彼らが何を言ったのかは理解できなかった。高校生なので英語は習っているが、それ以外にも私がテレビなどで聞いてきたどの言語にも当てはまらなかった。
もちろん、私は世界の全てを言語を知っているわけではないので、超マイナーな言語の可能性も無くはなかったが、この状況でそんな可能性を突き詰める気などない。
どうやら神官達は身振りで耳飾りを付けろと言っているらしく、私たちはその耳飾りをつけると、ようやく彼らが何を言っているのかがわかるようになった。
まるで魔法みたいだと思っていたら、そのものずばり耳飾りは魔法具だったのだ。
彼らが何かを言うとタイムラグなしに日本語になって私たちの耳に届いた。
口元の動きと発音は一致していないので、映画の吹き替えを見ている気分だ。
それでも、十分に意思疎通が取れるというのはありがたいことだった。
不安な点はまだまだ残っているものの、言葉が通じるという状況と彼らが私たちに害意を一先ずないことから、素直に彼らの案内されるがままに歩いた。
賓客をもてなす部屋で、私たちは互いの自己紹介をすることになった。
この場合は、召喚された者同士と王様達両方を含む紹介だ。
そこでようやく私は、同じく召喚された男子達の名前と略歴がわかった。
剣勇気。当時高校二年生で剣道日本一の高校生。
化野学。当時高校三年生で化学と将棋に命を捧げた高校生。
白滝味見。当時高校二年生で料理好きの冒険家高校生。
音尾奏。当時高校一年生で音楽会の神童と呼ばれた高校生。
なんともまあアクの濃い面子が揃ったものだと感心してしまった。小説や漫画ならば主役を張れそうなような面々ばかりだ。
その中で紅一点であった私だけが浮いている感じもするが、同じ日本から召喚された人たちだ。人付き合いが苦手でも、これからのことを考えれば仲良くした方が無難だろうと考え、人当たりの良い笑顔を取り繕って挨拶をした。
そして、私たちは王様から召喚された理由を教えてもらった。
イ=ワルド王国が魔王軍に侵攻され、未だかつてないほどの窮地に立たされているのだと聞かされた。国の騎士や兵士たちの奮闘しているが、それでも魔王軍は手強く戦況は厳しい。この状況を打破するために、王たち首脳陣はある決断をした。
伝説の勇者召喚。
数百年前にも、イ=ワルド王国は同じように窮地に陥ったことがあるらしく、その時に異世界から勇者が召喚され国を救ってもらったという伝説があるのだという。王国としては藁にもすがる思いだったのだろうが、王族の間に伝わる魔法陣があったため、最後の賭けとして召喚をしたら、私たちが召喚されたとのことだった。
正直、私は口には出さなかったものの「テンプレか!?」と心の中で盛大にツッコンでいた。王道といえば王道だが、まさかここまで手垢まみれな話を聞かされることになるとは思わなかった。
とはいえだ。
問題は召喚されたこと自体ではない。帰れるかどうかが一番の問題だ。
男子の方はすでに異世界召喚と勇者というだけで、漫画やゲームみたいだと喜んでおり能天気に前向きな様子を見せていた。頼れるのは自分だけだと自覚した。
私はその後も質問を重ねていき、王様を含めた偉い方々と話したところ、大抵ならば魔法陣から呼ばれた場合は、召喚された目的を果たせば送還されるらしい。
だが、古代の勇者召喚の魔法陣もそうであるかは保証できないとのことであった。
あまりにも古すぎるせいで、魔法陣の解析をできる人間がいないとも言われた。
もちろん王国としては呼び出した責任として、私たちには最大の便宜を図ると約束はしてくれた。
目の前が真っ暗になった。
わけもわからないままに異世界に召喚されて、帰る保証もない。
不幸中の幸いとしては相手がこちらを優遇してくれるとのことだが、あくまで勇者としての役目を果たすことができなければ、いつその手の平を返すかわからない。
いっそこの場から逃げ出したい衝動にも駆られたが、女一人が知らない世界で生きることが無謀なことはわかる。現代でぬくぬく生きていても、その程度の分別はある。
ならば、この状況を最大限活かすことを考えることに決めた。
まず、王たちにある要求をした。
私たちに教育を施すことだ。
言語、歴史、常識、地理、武術などありとあらゆる事柄における教育をしてもらうことだ。一介の高校生が諸外国で活動するにしても、大人の保証や監督が必要なのに、こと異世界にあたってはどれだけ備えても足りないことはないだろう。
そして、私たちが勇者として活動するにしても、ある一定の技量まで到達するまで大々的に国民に知らせるのは待ってほしいと伝えた。強くなる前にお披露目をして、無駄に魔王軍の注目を引きつけて殺されるのはごめんだし、実績も何もない若者を信用することなど誰もできはしない。
同じく召喚された男子組にも、当面はこの世界の勉強と勇者としての訓練を積むことには同意してもらった。会議中主に私が主導権を握っており、さすがの彼らも多少の時間が経って冷静になったのか、この世界の常識を身に付ける必要はあるだろうと判断し、教育を受けることを賛同してくれた。




