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ヘイ=シ立身出世することを志す!

※読む前の注意事項※

異世界ものではありますが異世界勇者なんて登場しませんので悪しからず。

 勇者が魔王と戦うために召喚された!!


 この一報が村へと届いた時、村の大人たちは口々に「これで世界は救われる!」と涙ながらに語っていた。

 村長なんかは喜びのあまり涙と鼻水を垂らしながら裸になって踊り狂っていた。

 あまりにも見苦しかったので、村人たちからは悪魔にでも取り憑かれたのかと心配するぐらいの様相であった。

 正直、真っ先に退治しないといけないのは魔王じゃなくて、目の前で不思議な舞を踊っている村長なのではないか。そう考えた村人全員は、村長の醜い裸踊りを止めるために、氷の張っている池に村長を放り込んでやった。

 さすがは村名物の鎮魂池だ。

 あんなに騒がしかった村長が、死んだように静かになってくれた。

 ただまぁ、年寄りの冷や水というのは本当のことで、池から引き揚げた村長の心臓が止まっていた。



 死んだようにどころか死んでいた。



 さすがに、このことには肝を冷やした村の大人たちが、大慌てで村長を蘇生させた。

 さらに、大人たちは子供たちに対して、村長を蘇生させたことは本人には秘密だと強く言い聞かせていた。

 真実が闇に葬られた瞬間を初めて見て、一つ大人になれた気がした瞬間だった。

 そして、意識を取り戻した村長が「死んだばあさんが花畑にいたのじゃ!!」と言っていたので「いい夢を見れましたね」と村の大人たちは優しく笑っていた。

 あぁ、なんて優しく素敵な大人たちなのだろうか。

 そんな彼らの優しさに心が震えた。恐怖で。

 いや、そんなエピソード自体はどうでもよく、勇者が召喚された時の朗報に比べれば、ほんの些細な微笑ましい小話に過ぎない。

 まぁ、村長が死んでも誰も困らなかったに違いないから、よくある笑い話になった。

 その後も、村の宴会では大人たちが「村長そんなに騒ぐと心臓止まっちゃいますよ!」と笑うのが鉄板ネタになってきたぐらいだ。


 この村は魔王軍に滅ぼされたらいいんじゃないかと本気で思った。


 それよりもだ。

 この勇者が現れたという一報は、瞬く間に王国全土に広がった。

 神様がくしゃみでもしたのかと思うぐらい、驚くぐらいの速さで広まり、勇者の名前を知らぬ者はどこにもいない状態であった。


 話のネタに困ったら勇者様。

 晩御飯のネタに困ったら勇者様。

 勇者様に祈ればなんでもできる。


 そんな、一大勇者ブームが巻き起こっていた。

 もちろん、王国から遠く離れたこの田舎であっても例外はない。

 魔王軍は強いし怖いというのが全国民の共通認識であり、何度も何度も届く勇者様の活躍には皆が笑い合っていた。

 そして、俺はふと気づいてしまった。

 気立てが良く胸が大きい宿屋のお姉さんが「あ〜あ。この村に勇者様が訪れたらすっごいサービスするのに! そして、私をのことをお嫁さんに――きゃっ!」と頬を赤く染めていた。

 おっとりとして、いつも綺麗な花を売っている胸の大きな花屋のお姉さんは「そうね〜。勇者様が来てくれたら〜お花を買ってもらってぇ〜私も一緒にもらってくれたら嬉しいなぁ〜」と胸をぷるるんと揺らしながら言っていた。

 村の婚期を迫った女たちが、赤ら顔になって「勇者様!」と瞳を潤ませている。

 そうだ。間違いない。


 ――勇者様はとてもモテる!


 その証拠に、村の中の未婚の女性どころか、すでに結婚している妙齢の女性までもが口を開けば「勇者様!」と言っている。一部のおっさんも「勇者様!」と頬を染めていたが、それは見なかったことにした。おっさんの赤ら顔なぞ見ても毒にしかならない。

 しかし、恐るべきはそのスケールである。

 モテる規模は王国全土だ。村一つ程度とはわけが違う。そう考えると、俺はとてもちっぽけな世界でしか生きてないのだと痛感してしまった。

 まだ見ぬ世界が広がっている。

 そう思うだけで心がワクワクし、眠れないぐらいに興奮してドキドキした。

 かくいう俺は来年には十五歳になり、村で言えば一端の大人として扱われる年齢だ。

 普通であれば、親が切り開いた畑を継いで農作物でも育てるのが一般的だ。

 そこから三年もしたら、嫁さんをもらって順風満帆な家庭を築くのだろう。


 将来の決断。


 それがあるとしたら、今をおいて他にない。

 俺は親の畑を継いだ場合のことを少しばかり考えてみた。

 嫁は誰になるのだろうか?

 できれば同い年で幼い頃から一緒に育ってきたムラ=コちゃんが良い。

 ムラ=コちゃんはいわゆる幼馴染だ。

 小さい頃から一緒に育ってきたせいで最初の内は気付かなかったが、近年は目を見張るほど胸が成長し「それ何の果実入れてるの?」と服がはち切れんばかりに主張している。

 しかし、それ故にムラ=コちゃんは村の男たちの人気が高い。

 村の若い連中の誰も彼もが嫁さんにしたいと考えている。そいつらを押しのけて嫁さんにできる自信があるかと問われると、さすがに難しく思う。

 無論、ムラ=コちゃんを想うこの気持ちは本物だ。

 その証拠に、目を瞑ればムラ=コちゃんの胸をいつだって思い出すことができる。ぷるるんとたわわに実った果実が目に焼き付いて離れない。さらにムラ=コちゃんの果実が上下左右に揺れる様は圧巻だ。

 だが、ムラ=コちゃんをものにするには、そんな想いだけでは足りないのだ。

 親の畑を継ぐといっても規模は普通だし、俺の家以上の畑を持っている奴だっていっぱいいる。わかっているんだ。男の価値は財産じゃないなんてことは。心や愛が大事だと大人たちはこぞって言うけど、俺は真実を知っているんだ。

 前に、村の若い女衆が集まって会話している現場にたまたま出くわしたことがあった。その時に「愛してくれるのは当然としても、やっぱり男はまず第一に財産がないとね!」と朗らかに話し合っていた。

 村の女たちの笑い顔の奥には金勘定があったのだ。

 そのことを知ってから改めてムラ=コちゃんの動きを見れば、村一番の金持ちの息子にちょっとした色目を使っているのがわかった。畜生。いつも胸に目がいっていたせいで、気づくのが遅れてしまった!

 やはり、親の畑を継ぐ人生はダメだ。


 ぷるるん果実を収穫できないからな!


 では、どの道を選択するべきか。

 それが問題だ――と、普通の連中ならば、ここで迷うことだろう。

 だが、俺は迷わない。即決即断した。

 勇者様の今までの活躍を見れば、そんなことはわかるだろう。

 彼らの活躍を見聞きし、そんな彼らに憧れて仲間になりたいと志願してる者は大勢いると聞く。中には戦場で名を馳せた冒険者や傭兵はもちろんのこと、悪名高い盗賊までもがいるという。

 こいつらはダメだ。何もわかってはいない。

 勇者様だぞ?

 彼らは選ばれし人間であり、一般人とは一線を画す存在だ。

 そんな仲間になろうなんて、それこそ伝説に名を残すぐらいの存在じゃないと釣り合いが取れないというものだ。ちょっとぐらい有名ではダメなのだ。

 つまり、こいつらと同じ道を選んでも全然ダメだ。

 しかも、万が一勇者様の仲間になったところで、彼らが行く道は魔王との戦いだ。

 激戦中の激戦だ。下手をしなくても死ぬ確率は跳ね上がる。

 命は大事だ。命あっての物種だ。命がなければおっぱいも揉めない。

 魔王と戦うなんて真っ平御免だ。

 そんなわけで、勇者様の仲間になるという案も却下だ。簡単に死ぬ自信がある。


 一.勇者様のおこぼれに預かれる

 二.命の危険が少ない

 三.安定した給金


 これが俺が求める条件だ。

 恥ずかしげもなく言えば、俺だって勇者様並にモテたいと思っている。

 そう思っている一方で、そんなことは無理だということもわかっている。

 それに、今は勇者様と言っている娘たちも、結局は勇者様とお近づきになれずに終わり、身近な男たちの嫁になっていくものだ。

 もうわかったことだろう。

 俺が目指すべき道。


 それは――イ=ワルド王国の兵士を目指すことだ。


 これならば、ある程度勇者様に近い立場にいて、それでいて命の危険性も少ないし、堅実に給金もいただける。馬鹿みたいにモテることもないが、ちょっぴり美人で胸の大きな嫁さんをもらうことも可能だろう。

 人生に高望みは禁物だ。

 たかが一介の村人ごときが勇者様を目指そうものならば、まず真っ先に魔物やら怪物に殺されることだろう。

 いつも寝物語に婆様が語ってくれる話には、そういうのがよくあるからな。

 こうして、俺ことヘイ=シは、王国の兵士となるべく村を旅立った。

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