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出会い

プルルルル プルルルル

「はい。カレー工房イエロースパイスです」


毎日ダラダラと何もせずに過ごすオレを心配して、妹が持って帰ってきたアルバイト募集のフリーペーパー。暇つぶしにペラペラとめくっていたら、ふと目に付いた募集広告。


【カレー工房イエロースパイスRIBU店

時給1,300円 未経験者歓迎 賄い食べ放題】


時給もさることながら、オレの心はもちろん賄い食べ放題に突き動かされた。

毎日カレーは飽きるかもしれないが、それでもお腹いっぱい食べれるのならば最高。なんせオレのお小遣いのほとんどは食費に変わる。


「冷やかし半分でかけてみるか」


と、鳴らした電話。


「もしもし?こちらカレー工房イエロースパイスですが…もしもし?」

「あ!あ!す、すみません!オ…ボクはあの、アルバイトの募集をみて電話してます」


ビビった。

いや、ビビったんじゃない。その天使の様な声に一瞬時間を止められた。息をすることも、心臓を動かすことも忘れて、固まってしまった。

彼女は天使だ。姿は見えないが、間違いなくオレの理想の人だし、これは運命の出会い。まさにその瞬間だ。


「あ、アルバイト希望の方ですね!ありがとうございます。少々お待ちください。」


キミの為なら来世まで待てる。


「お待たせしました。明後日の9日の午後2時にお店の方で面接とさせていただきたいのですが、ご都合は如何でしょうか?」


もちろん!


「大丈夫です!」



電話を切り、小さくガッツポーズをした瞬間…


「何テンション上げてんの?またいつもの惚れてしまいました病?お兄ちゃん、それ、一歩間違えたらストーカーだからね?」


「わっ!びっくりした!お前どっから聞いてたんだ?」


「お兄ちゃんがお尻ボリボリ掻いた手でお菓子食べながら電話かけ始めたところから」


「んだよ。全部じゃねぇか。ていうかもう学校終わったのか?…て、今日は日曜日か」


「ダラダラし過ぎて日曜日も月曜日もわかんなくなっちゃってんだねー!人間終わる前にちゃんとバイトでも何でもしなよ。そんなんじゃモテないよ。絵美ちゃんとカラオケ行ってくるね」


「うるせー。行ってらっしゃーい」


さて、俺も買い物とかやっとかないとな。



そして2日後、オレは天使に会うために自転車で丘を下ってRIBUに向かっている。

みんなにはあまりイケてないと言われる顔だけど、男は顔じゃない。

少しぽっちゃりだけど、その方が包容力というものがあるとも聞いたこともある。だいたい、これは脂肪じゃない。筋肉。

7,000円でカットと緩くウエーブをかけた。

6,800円の流行りらしい縞々のズボンも買った。

あとはオレの天使にこの想いを伝えるだけ。


自転車のスピードだってその辺の奴らより速い。

今日はきっと良い日になる!





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





5月9日 午後1時40分


RIBU賀南店は大きい。このショッピングモールはチェーン店で、今や日本では一番大きなショッピングモールチェーンになってる。全国に展開してからまだ5年と経たないけど、経営者はこの賀南の人らしい。だからこの賀南のRIBUは本店で、一応全国でも一番大きい建物みたい。

大小130店舗のテナント、RIBU直営の生鮮売り場、アミューズメントエリア、映画館。

その気になれば一週間遊べる。とまぁ、オレは思う。

東京はもっとすごい建物とかがあるんだろうけど。行ったことないからわかんない。

その地下に広がるのは飲食店エリア。お菓子やパン、惣菜売り場、そしてカフェやレストランなど。

平日の午後、それでも沢山の人で賑わっている。


「えーと、この奥の突き当たりか」


【カレー工房 イエロースパイス】

明らかに手描きだ。ボロい看板。これだ。

なんか思ってたのと違う。なんか違う。でもここに天使がいるのなら、つまりここは天国だということだ。


自動ドアを抜け、店内に入る。

「こんにちは。2時に面接の大渕です」


店内には20代半ばくらいのお兄さんお姉さんのカップルが一組。スプーン持ったまま困惑した顔。

「……不味すぎ……どうしよう?……食べれ……残す?」

まぁポジティブな会話ではなさそうだし、理由は店側にありそうなこともオレですら感じれる。



まぁそんなことはどうでもいい。



「すみませーん!面接の…」

「はいはーい!ちょっと待っててくれ」

野太い声。

恐らく店長だな。ていうことはマイエンジェルは今日は休みなのかな?なんだよ。期待外れもいいとこだ。


カウンターの横で立ったまま待つ。

ついにほとんど食べてないカレーの横にスプーンを置いたカップルがこの世の終わりみたいな顔をして食べ残したカレーを見つめている。

賄い、食べ放題じゃなくてもいいかもしれない。


「やー、お待たせお待たせ!まぁまぁ、さ、そこ座って。大渕ミチロウくん。良い名前だね!キミ高校生?あ、卒業したの?フリーター?へー、ならお昼大丈夫だね。いやまぁほら、おっちゃんもう歳だし。そんなに忙しい店じゃないんだけどさ。ん?他のバイト?あぁ、一昨日まで女の子雇ってたんだけど、なんか駅の方のハンバーガー屋さんで働くみたいで辞めちゃってさー、もうどうしようかと困ってたんだよね。大渕くん、フリーターなら明日から来れる?出来たら夕方からも入って貰えたら嬉しいんだけど。それと週末はそれなりに忙しいから絶対来て欲しいかな。制服のことなんだけど、キミ少しおっきいから確かおっちゃんが前に着てたLLのシャツが……」



恋とは、こんなにも早く終わりを迎えるものなんだな。

この店内にいる4人の人間のうち、笑ってるのはおっちゃん1人。なんて店だ。

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