表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/163

7

 昨日のビルの発掘は午前中で終えてしまったので、午後からは、別のビルに移ることになった。

 てっきり、隣へ向かうものだと思っていたが、班長であるノゾミにヒザキが言った。

「この辺探したって、どうせまた、ちり紙交換っスよ。今日は少し足を延ばしてみないっスか?」

 夕食のとき、アカハナも、収入が落ちていると言っていた。ノゾミは少し考えて、

「そうだな。たまには、いいかもしれん」

 リヤカーを三台、ガラガラと引きながら、アキラを含む若者組十名は、閑散とした道路を進んだ。路駐してある車が、朽ちたタイヤをぺしゃんこにして錆びていた。看板や道路標識、街灯の支柱にも錆が浮いている。

 パンデミックのとき、人々はまず都市から脱出した。人が多い場所は即ち、感染の危険が多かったからだ。そのため、あれほどいた人も、あれほどあった自動車も、その残骸さえ、ほとんど見られない。

 たまに、人の死骸が転がっていたりするが、それはたいてい、パンデミックのときのものではなく、行き倒れた放浪者か、ワスプにやられた被害者だ。

 アキラたちは、歩きながら、適当な建物を探した。

 どのビルでも発掘して良いというわけではない。各ハイブには、大まかに縄張りのようなものが決められていて、うっかり他所の縄張りを荒らしたりすると、両者に軋轢が生まれることもある。最悪の場合、ワスプと間違われて攻撃されることさえあった。

 前を行くノゾミが、片手を横に突き出し、止まれの合図を出したので、アキラたちはリヤカーを止めた。

「人だ」。声に緊張がこもっている。

 見ると、真っ直ぐの道路のずっと遠くに、動くものがあった。まだ、ずいぶん遠い。ヒザキなどは、眼鏡に手をかけて目を凝らしているが、見つからないようだ。おそらく、向こうには、まだ気付かれていないだろう。

「隠れよう」

 アキラたちは、リヤカーをビルの間の狭い路地に突っ込んだ。

「ワスプか?」

 ヒザキが言った。その響きに、アキラは心臓が跳ねあがるような気がした。

 ワスプは、巣箱ハイブを荒らす獰猛な蜂の意である。ハイブに暮らす者として、これ以上の恐怖はない。

「わからない。だが、見たところ三~四人。ワスプだとしても、脅威じゃない。縄張りの境界が近い。おそらく、他のハイブの住人だろう」

「知るかよ!早く逃げようぜ!」。仲間の一人が言った。

 ノゾミは、眉間に皺をよせ、しばらく考えていたが、「いや、近づいてみよう。遠くまで来たと言っても、俺たちのハイブから近いんだ。ワスプであるなら、はっきりさせておいた方がいい」

「冗談だろ…」と青い顔をして、その男は黙った。

「なに、全員来いと言っているわけじゃない。俺を含めて五人もいれば十分だ。そうだな…、ヒザキ、スーコ、来てくれるな」。二人は、しぶしぶ肯いた。「あとはケンジ、それから、ショウゴ」

 名前を呼ばれたショウゴが、ビクンと肩を震わせた。

「俺は…、その…」

「なんだ、新入り。怖気づいたのか?いつもの威勢はどうした?」

 すかさず、ヒザキが馬鹿にする。

「やめろよ、ヒザキ!」。アキラが割って入った。「ショウゴは、ついこの間、ワスプにハイブをやられてるんだぜ?怖くって当然だろ!」

「じゃ、ナニか?ガキんちょ。お前が代わりに行くっていうのかよ?」

 アキラはゴクリと唾を飲んだ。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。ヒザキのふてぶてしい顔を見ていると、怒りとも勇気ともつかない感情が湧いてきた。

「そうだ。俺が行く」

 ノゾミが心配そうな顔で、「コラコラ、メンバーは俺が決める。アキラには、まだ…」

「俺はガキじゃない!」

 ノゾミは黙った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ