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ショウゴがいたハイブの名は、ナインスと言った。
たとえ、ワスプにハイブが襲われたとしても、悪くてもその半数くらいは、逃げるなり、逃がされるなりして生き延びるのが通常だ。
だが、ナインスハイブは、皆殺しの憂き目にあった。その唯一の生き残りが、このショウゴだ。
たった一人生き延びることのできた彼は(生き延びてしまったというべきか)、いくつものハイブを渡り歩き、受け入れてくれる所を探したが、答えは何処もNOだった。
人々が最も恐れているのは、パンデミックから十年経った今でも、やはりウィルスだった。
本来なら、数百人のハイブなど作らずに、まとまった人数で住めばいい。
ハイブの人間がもっと増えれば、もっと効率的に生活することができる。ファームのような大規模な農耕もできるだろう。ワスプに対する防衛力も増すし、そうなれば、ワスプもハイブを襲うのをやめるだろう。
だが、ワスプは人員不足で戦力の弱いハイブを襲い、ハイブが壊滅しようものなら、行き場を失った住民が、新たなワスプになることもある。こうして、止まらない悪循環を生んでいるのだった。
人類の文明を破滅させたD13型ウィルスは、感染した者を、たった一人の例外なく、死なしめた。感染は即ち、死。人々は、ウィルスから身を守るため、できるだけ小さい単位に別れて生活するしか方法がなかった。
とはいえ、食料の問題、ワスプ、放浪者など、外部との接点を完全に絶つことは不可能で、感染によって全滅するハイブも、かつてはいくつもあった。そのため、今、この世界に生き残っている者の多くは、数少ない、先天的に免疫を持った者ということになる。免疫は親から子へ遺伝するらしく、免疫を持った両親から生まれた子もまた、ウィルスに感染することはない。ウィルスは、まるで旧約聖書のノアの方舟伝説のように、選ばれた者だけを地上に生かした。
だが、免疫の有無を調べることのできない現在では、果たして免疫を持っているのか、たまたま感染せずに生き残っているのかを判別する手段がない。
外部から新たなメンバーを入れた場合、その者が保菌者でないという保証はない。新入りが一人入ったせいで、ハイブが全滅という事態すら予想されるのだ。
または、ウィルスが変異し、これまでの免疫が役に立たなくなったら、どうだろう。再び、あの悪夢が蘇るのではないだろうか。人々は、それを何よりも強く恐れていた。
実際には、そんな事例、ここ5年で一つもない。現在生き残っているほとんど全員が、ウィルスに対して免疫を持っていると見て間違いない。だが、その恐怖を拭い去ることはできない。
たとえば、婚姻などで他のハイブから新しいメンバーが加わったとする。偶然、その直後に、感染力の強い疾病が、受け入れたハイブに広がれば、当然、その新入りが持ち込んだという見方が強まるだろう。医者も薬もない現在、ただの風邪でも死者が出ることはある。そうすると、D13型ウィルスの仕業だとされるのだ。
もちろん、冷静に考えればD13でないことは明白だ。だが、今回は違っても、次回が違うという保証はない。
D13であるか否かを判別する術のない今、『部外者は危険』という固定観念だけが独り歩きしている状態だ。
そういうわけで、ハイブやファームは新しい人間を受け入れることを極端に嫌う。商人は病気を媒介すると言われ、彼らと直接取引することもまた、嫌われていた。
アキラたちのハイブがショウゴを受け入れたのは、この弱小ハイブにとって、若い男手は貴重であり、少しくらいのリスクを冒しても欲しかったからだ。