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第7話 なんで泣いてるの?

 あのオークは恐らく斥候。ということは、彼らはそれなりに統制が取れているということになるのだが、そうなるとある程度の知能を有しているはずである。それによってこちらが戦略的に追い詰められる可能性もあるが、逆に言えば先ほどの戦闘を見て退く可能性だってある。と、これにかけてみたのだが、淡い期待は秒殺された。


 刺す様に飛んでくる強力で凶悪な殺意は止む事を知らず、むしろ強くなる。まるで夏の雷雨の様に。今もなお、殺してやる殺してやると鋭い視線で睨まれている気がしてならない。当然だ、俺は彼らの仲間を殺した。逆の立場なら、俺だって相手を殺したいと願うだろう。人間である俺も、この場にいる魔物も、大した差は無いのだ。



 王笏を握った手は、わずかに汗をかいている。

 当たり前だが、異世界なんて来るのは初めてで戦闘だって実戦経験は無い。死の淵に立ち、膝が笑っているのだ、手汗くらいはかいても恥ではないだろう。


 クラスメイト達も同じように震えてるに違いない。


 俺はその場で軽く二回ジャンプをし、身体の緊張を解きほぐした。そのまま踏み込み、モンスターの集団へと突っ込む。


 相手の剣の間合い。今まさに斬りつけんと振り上げられたそれを、モンスターの手首ごと小規模爆発魔法で吹き飛ばす。

「グヴァ……ッ」

 彼はわずかに声を上げた。


 俺はそのまま懐に入り込み、王笏を喉元に突き立てた。マグマの様に粘度のある血液が王笏を滴る。

 化物が倒れ込む前に王笏を乱暴に引き抜き、一歩後ろへ、その化物の腹へかかとを叩き込んでやった。



 少し油断をしていたのだろう、俺は一体目の影に隠れていオークに首を掴まれてしまう。襟元ではない、首、そのものをだ。折れんばかりに強く。

 そのまま地面に俺を叩きつけ、あの粗雑で粗末な剣を俺につき立てる。実に不愉快だ。

 切れ味の悪い刃物ほど痛みが強いと聞いたが、案外痛みは感じなかった。というより、痛みは全く感じられない。アドレナリンのせいなのだろうか? ただ、火傷しそうな程の熱を感じる。


 ……これが刺されたって事なんだなぁ。

 と冷静に思う自分に少し驚いた。


 突き立てられた剣をそのままに、俺はゆらりと立ち上がる。ぶちぶちと何かが引き千切られる音がし、剣が地面に落ちた。それを奪い化物を払い除けるように切りつける。

 動きが止まる化物。上下を両断され、その場に崩れ去った。


 あと三体。


 俺の戦い方を見て警戒しているのか、睨み付けると彼らはたじろいだ。

 即座に間合いを詰め先ほど奪った剣で切りかかるが、相手の放つ斬撃に弾かれた。一拍置き、今度ははっきりと咆哮を上げて反撃を試みてくる。

 殺されるって、こういう事なのかな。みんな今まで、ありがとう……。

 などと、感傷にひたってみたが、当たり前だが殺されるつもりは毛頭ない。


「エンチャント・デュレイブル」

 それぞれ、武器の耐久力を上げるエンチャントである。ボロボロの剣を伝説の剣並みに使える物へと変える算段であるが、俺が扱える魔法はエンチャントを含めクラス2までであり、伝説の剣とは程遠いものにしかならない。それでも、通常の剣と打ち合って折れるという心配は、相当少なくなると思っていい。ここにいる化物――オーク――が岩に剣を振り下ろそうとも、折れる事はない。

 と、言いたい所であるが、俺たちがいた世界にはオークなんて化物はいなかったので何とも言えない。獣化したヘクサーと実際に戦った事も無い。


 俺の刺突で盛大に火花散った。受け止め切れなかった盾は手より弾かれ、オークは仰向けに勢いよく倒れる。そしてマウントポジションへ。こうなるともう、オークと言えど子豚同然である。

 俺は、もう片方の手に握る王笏の頭を、オークに突っ込んだ。

 「ブリュレ……ブリュレ、ブリュレ」

 魔法を放つ度に、オークの身体はピクッと痙攣した。


 そしてまた、あの嫌な臭いだ。髪の毛が燃えたような、あの臭い。


 あと二匹。

 どこだ、二匹は。

 やっつけないと。

 倒さないと。



 そう思って周りを見回すものの、モンスターの陰も形も無かった。少々離れた場所に成神がちょこんと座ってるだけ。だが、成神が無事ならそれでいい。

 その目には、涙を浮かべていた。

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