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第63話 蓮の葉のカエル

 太陽はとても高かった。

 茫漠と、荒涼としたクルミ色の焦土に降り注ぐその光は、キュートなおれ達のナイーブな肌に決して優しいとは言えなかった。

 じんじん、じんじんとする。

 その切っ先の鋭さたるや過去の“俺”の想像を絶するものがあり、皮膚表面を次々と易々と殺していった。


 ただ、山を越えたあたりからは、多少の過ごしやすさを覚えた。

 成神達5人のケツを何気なく後ろから眺めていると、地中海を思わせる爽やかな風が頬を撫ぜたのだ。


 あぁ、そうか、湿度が低いのだ、きっと。

 だから過ごしやすいのだ。日本の夏はアフリカよりも暑いと聞く。そういう事なのだろう。


 遥か遠くの王都へ向かう道すがら、この世界だって悪い所ばかりじゃねぇなあ、とも考えた。

 そうは言ってもやはり、陽はジリジリを肌を焼く。故に彼女らは日陰へと避難するのだが、これがまた俺のキモ笑いを誘うのである。その光景はまるで、蓮の葉を飛び渡るカエルのようであった。ゲコゲコ。

 いや、俺たちは旅をしているのだ。この場合は渡り鳥と言った方がいいのだろうか。しかし、彼女らに優雅さはなく、ぴょこぴょこと跳ねる姿はまさにカエルのそれである。


 笑いを堪える、必死に。

 しかし抵抗虚しくひとり笑いを漏らしそうになると、それにいち早く気が付いたのはやはり成神だ。

 彼女はプンスカと近付き、おれを威嚇。空に伸ばした右手を、まるでマイクでも握っているかのように今度は俺に突き出してきた。

「気持ち悪い、にやけたりして。和人さん!! 暑さでおかしくなったのでは!?」

「はぁ……はぁ……、な、殴られるのかと思った……それはそれでいいんだけど! ほら、さあ。日焼けとかお前ら対策しなくて大丈夫なのかなぁってさ、ちょっと考えてたわけよ」

「うーん確かにねぇ。もちろん気にはなるけど、気にしても仕方が無いもん。無いものは無い。そうやって諦めた方がいい事だってあると思うわよ。塩見ちゃんたちも諦めてるみたいだし、私はそれを追いかけるのみだよ」



 まぁ、確かに、それも一理ある。諦めは肝心。


 隣の芝を自分の庭に移植したらポリスに捕まる、というのは、有名なことわざだ。どんなに欲しくても無いものは無い。他人から盗み取ることはよくないよ、という意味である。

 このことわざが正しいかどうかインターネット検索にかけようにも、携帯の状態はノーサービス。基地局の電波を拾ってはいない。科学技術の結晶は、この世界じゃただの文鎮だ。

 もっと重ければ漬物石くらいにはなるかもしれんが、残念な事に魔法のような科学技術により重量は文鎮よりも軽い。


 スキンケアも科学技術の結晶みたいなもんだ。詳しくはないが、なんか紫外線を吸収したり、なんか肌の新陳代謝を操作したり。どれもこの世界では再現が出来ないものばかりだ。

 しかし、俺から“おれ”へと変わってから、なぜか無性にスキンケアなんぞに興味が湧いてきて困っている。


 このままでは皆が皆、臨海学校に行ってきた小学生並みに日焼けをしてしまいそうだ。あれは相当に酷い有様であった。就寝さえも困難に思えるほど、肌は焼け、そして痛んだ。

 

 俺に「魔王になってください和人様」と懇願したハミルカル氏には悪いが、これはもう魔王役を下ろさせていただくしかなさそう……。


 だって日焼けなんかで表皮が剥けてしまったら、もう魔王役としては一皮剥ける事がなさそうだからである。もし無理やりにでも一皮剥けさせられてしまったら、俺のビューリホーなお肌に深刻なダメージを負わせる羽目になってしまう。

 それはきっと、とても苦痛を伴うものだと思う。



 男だった頃なら全く気にもしなかったが、日焼け程度なら。

 こう、女になってしまうと、精神までもがそれに寄せていくのだな、と。


「なぁ、みんな。俺、元に戻れるのかな」

 と、自然と口にしてしまった。


 塩見は、「さぁね」とジェスチャーをし、それに続ける。

「なるようになるわよ。というより、なるようにしかならないわ。リンゴが樹から落ちるようにね。私としては、あの世界に戻るまでアンタには女でいてほしいけど、どう? 一面飾る?」

「俺を学校新聞のネタにするんですか?」

「まあ、そうね。美味しいネタだわ、とてもね」



 元の身体へ戻すという事を諦めた訳ではないが、ここにいるという事も含め、このままでもいいかなとちょっと思い始めてた。

 でも、そうネタにされるのも風呂やトイレは成神さんの監視下で行動しないといけないのも、やっぱり不本意であるので、うーん、戻れるなら戻した方がいいのかなぁ。あっちに戻ったら、戸籍とか色々面倒臭そうでもあるし。


 しっかし、なんでまた、俺が半裸または全裸になるシチュエーションで成神は監視の眼を光らせるのか。これは全くの謎だ。


 謎は他にもある。

 なんで料理も美味いのだ、異なる……世界なのに……。


 いい匂いがしてきたなぁ、と顔を上げると、目の前には夕焼けに染まる小さな町があった。

 丁度いい頃合いだ、今日はここで宿を取ろう。

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