第5話 え、剣じゃないんですか?
モンスターは近い。
向けられている本物の殺意に、息苦しさに似た恐怖を覚える。成神も、それはたぶん同じだ。
普通は逃げ出すよなぁとは考えたが、ここで逃げ出したら男が廃るというもんだ。
「お姫様を守るのは王子さ……召使いアンタの役目でしょ……?」
「お前はお姫様というより……魔女とか魔王みたいだぞ……?」
鋭い視線で成神は俺を睨み付ける。対峙する殺意にまみれたモンスターよりもこの成神の方が遥かに怖いが、それを言ったら殺されそうなので今はやめておこう。
殺されそう、ではなく、たぶん殺される。小声で「次ぎ言ったら殺そう」と言ったのが聴こえた
「男の子だったらさ、俺が考えた最強の武器、ってあるじゃない?」
俺の黒歴史に存在する伝説の剣の事だろうか。今まさに俺の心の古傷をグリグリとえぐり続けている、最強の武器だ。
「へ、へぇ、そんな物あるんだね、俺はそんな物考えたこと無いけど」
「え~っと、確か……、決まった形を持たない黒い刀身の剣、黒い鎧だっけ」
こいつは俺の黒歴史ノートを盗み見た事があるらしい。ちょっとだけ如何わしい本と共に本棚の奥に隠してあったハズの、その黒歴史ノートを。成神がそれを読んだことがあると言う事は、ちょっとだけ如何わしい本も見られたという事になる。ダブルで恥ずかしい。
「魔法の根っこには願いや妄想があるの。想いが強いほど、強い装備が作れるわ。妄想中二糞野郎の和人なら、きっと彼らを屠れる武器を作れる。でも安心して、巨乳ビキニのグラビア写真が原因でビキニ姿になったりはしないから」
テクニカルに、的確に、確実に俺を殺しに来ているようだ。
「ちょっとカウンセリング受けてきていい……?」
そんな俺に対し成神は少しにやけながら、使い古されたショートソードを俺に手渡してきた。これをベースに、武器を作れと彼女は言う。
俺は鍛冶屋ではないので剣を打ち直す、なんて芸当は出来ないのだけれど、構成している素材を分子レベルまで分解して物体を再構成させる魔法なら扱える。学園での必須科目だ。
それは現代科学を理解していないと行使する事はできない、これぞまさに現代魔法と呼べる代物で、チェイサーをはじめとする魔法行使者が魔装をする際にこの魔法が応用されている。
魔法と言うのは主に妄想を糧とする。よって、自分好みの魔力を込められた装備――魔装――が一番性能を発揮しやすく、チェイサーの魔装には決まったデザインはない。
ここにいる成神を含め複数のチェイサー見習いの女子生徒は、かなり奇抜な格好をしていた。俗に言う魔法少女がするような格好で、武器も含めた全ての魔装がそれに準じてデザインがなされている。
どうでもいい事だが、俺の魔装は学園の制服と寸分違わない物であり、実戦形式の練習の際それに気付かなかった教師に「お前早く魔装をしろ」と怒られた事が何度かある。教師ならそれくらい知っておいて欲しい。
因みに、魔装はその日の気分によってデザインを変える事も可能だ。
「来いよ、俺の最強の武器!!」
妄想を胸に、手にした剣に意識を集中する。剣は分解され霧散、再び手に集まり、徐々に形を成していく。
だが、そこには最強の剣は存在しなかった。
まず、俺が妄想した形とは違う。そして、元のショートソードより明らかに重い。物理法則を無視して存在してるとでもいうのだろうか。
「うーん、思ってたのと違う……」
俺は小さく溜息を吐いた。