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第58話 ある意味新しい船出

 恐らく彼女らは何らかの魔法の影響下にあり、俺の姿が同年代の少女に見えているのだ。だから、成神久遠は珍しく真面目に、その慈しむ心から声高々に持論を展開したのだろう。


 原因はやっぱり、あの小箱なのだろうなあ。

 俺が勝手に触ったばっかりに、こんな事になってしまったのだ。でもあの封印の仕方が悪い。あんなの気になって解いてみたくなるに決まっている。

 まぁ、普通は勝手に他人の物をいじったりしないわけで、こうなってしまったのは俺に対するバツなのだろうな。


 俺はすっくと立ち上がり、部屋を後にした。


 書斎までの道のりは、6人でぞろぞろと。その内のひとりは少々訝しげな表情をしていた。

「な、なんだよ、塩見。お前らがおかしいんだぞ。お前らの頭が今極めてヤバイ状態になってるんだぞ。俺が何とかしてやるから待ってろ」

「うーん、確かに口調は和人っぽいなぁ」

「まぁ本人ですからね」


 大きいとは言え背筋を伸ばせない箱の中に潜んでいたのだ。その反動だろう、今は身体の調子が良いようにさえ思えてくる。軽く感じるのだ、凄く。

 今ほうきを渡されて跨ったら、きっとそのまま飛んでいくのでは無いだろうか、なんて有りもしないことを考えてしまうほどだ。


 思わず、スキップなんかもしてしまう。





 ハミルカル氏の書斎。そこには、見たことも無いような装丁の怪しい本が、棚には並べられていた。内容は見ずとも想像できる。きっとそれは、その中身も仰々しいものなのだろう。

 人の皮膚を用い装丁を施されたアレがなくてよかった。まぁ、あるとしても、人目に触れる場所には置かないだろうけど。

 

「なるほど。ではその小箱を、勝手に! いじっていたら光を放ち始めたと!?」

「そうです……。ハミちゃんごめんよ」

「はぁ、先が思いやられますな。心して聞いて頂きたい、魔王様」

「は、はい?」

「その魔法……いえ、呪いに近いそれは、今のところ解呪の方法はありません。その道具を作った者であれば可能でしょうが。何分古いものですからな、お亡くなりになられてるでしょうな。しばらくその姿で過ごしていただきますぞ。いい機会です、これを機に反省をしていただきたい」

「返す言葉もねぇ」


 さすが元将軍といったところか、俺を見るなり誰かを察したのだった。


 まぁ、ただ、成神についてはいまだに懐疑の念を晴らしてはいないようである。彼は一応はこっちでそれなり地位にいた者なのだが、そのの言葉を信じられないのか。実際に、本人である俺も、俺は俺だと言っているのに。


「ここはあれしかないですな、荒療治。成神のお尻には小さなホクロがある」

 これでどうだ。

 それは幼き頃の記憶であるが、これは他に誰が知り得るだろうか。尻だけに。


「かぁぁずうぅぅうとぉぉ……セイッ!」

「ヌッ……!」

 想定の範囲内である。それはそうと、やっとの事で俺を俺だと認識してくれたみたいだ。


 そこから先の記憶は無い。

 目を覚ますと、あの時のようにそこには天井があった。それは眼前に迫る勢いでその絢爛さを見せ付けてくるようで、少しばかりの眩暈を覚えたような気がした。


「くっ……、今は西暦何年だ? 俺は……俺は一体、どれ程の時を失ったというのだ。なぁ雨飾、教えてくれ」

「西暦は分からないけど、だいたい2分くらい経ったよ」

「うーん、本当?」

「本当です」

「そっかー意外と長かったな。ていうかマジ死ぬかと思った」


「そのまま寝てろ!」

 成神だ。


 ハミルカル氏は気が気でないようだ。

 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ慌てているような素振りを見せる。

「なんと、なんと……。成神殿、和人様は魔王候補……魔王候補……」

「うん、知ってる。ハミちゃん散々言っていたものね。でもこの和人がそんなのになれるとは思えないんだけど。情けないし、弱いし」

「それを言われると何も言い返せないのが悲しいですなぁ。もうちょっとしっかりしていただかないと」


 しっかり、って言われてもなぁ。

「他に候補っていないの?」

「存在しません。正確には、もうお一方いらっしゃいました。あなたの妹さんです」

「あぁ、分かる分かる。アイツも怒るとちょっと怖かったからなぁ」



 薬草の件も全て報告を終えた。

 メイドさん弟の病も回復の兆しを見せていると告げると、ハミルカル氏は満面の笑みでそれを喜んだ。

 こんな優しそうなおっさんが魔王軍で将軍をしてたなんて、ちょっとホントなのぉと疑ってしまいたくなる。というか、そもそもホントに魔王軍なんてものがあったのか、それも怪しいのだけども。


 そして、俺はしばらくの間このままであるとの絶望的な言葉を反芻し、その都度一々絶望したが、もう諦めなければなるまい。風邪と同じだ、2~3日で治るだろう。いや、治る。

 病は気から、と自分を慰めたが、よく考えたら病気じゃないじゃないの。呪いだよ、呪い。


 あぁ、どうしよう。

 現在着用しているのは自分の、男子用の制服だ。それなのに、それなのに……。すごい違和感を覚えるし、実際に上着が擦れて仕方が無い。このままだとソレはじきに痛みに変わるだろう。


 新しい服でも調達するかぁ。

 ちょうどお腹も空いているし、市場で何か探そう。

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