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第54話 魔王湯

 あの豆粒のように小さい薬師は問いを発した。

 “発狂して喉を掻き毟って死ぬような毒……じゃなくて、栄養剤飲む?”

 俺の冗談の後に間髪を入れずに、である。


 その劇物がね、掻き毟る系のヤバイ奴じゃなくて、モテるとかカッコよくなるとかコミュ力が上がるとか、そういうモノだったら俺も摂取していた可能性が少しはあった。いや、摂取していたと思う。



 それが死ぬものではなくモテモテになるようなものであれば、俺がそれを摂取していた可能性は十分にあるのだが、彼女ははっきりと発狂して喉を掻き毟って死ぬ毒と言ったのだ。誰が飲むものか。なんだよもう、ステルスマーケティングじゃなくて俺を対象としたダイレクトマーケティングだよ、これ。


 “この商品、使う前から壊れてるし修理もしないです”って宣伝しつつ“割引無しで買いますか?”と言ってるようなもの。俺の危険センサーがこれはヤバイと反応している、“飲むなよ、絶対に飲むなよ”と、ビンビンに。


 そりゃまぁ、絵面的には壮絶な死に方ってのは面白いのかもしれないけども、当然、掻き毟っている当人は楽しくないからね!



 でもなんで毒なんて持ってるんだろ、暗殺者じゃあるまいし。元とは言え魔王軍将軍のお膝元だ。何か問題でも起こしたら、それこそ事である。最悪のケースとして、処刑もありうるのではなかろうか。あのハミちゃんに限って、そういうのは無さそうだけども、一般論として。いや、この異世界の一般論とか知らんけども。

 だから、きっとあれは毒ではないのだ。

 薬だって、沢山飲んじゃったら死ぬ事だってある。

 だから、その“発狂して喉掻き毟って死ぬような薬”でも、適切な濃度で使用すればきっと薬としての効能を発揮するのだろう。


 怖い、怖い、こわーい。毒と薬は表裏一体なんだね。

 柄にも無い事ではあるが、それは正義と悪にも言える事なのかもしれない。

 俺は最初の日にオークを殺した。焼いて、である。しかし、そいつは村を襲おうとしていたのだから、当然とも言える。俺たちからすれば、正義なのだ。

 しかし……だ、そのオークに愛すべき家族がいたとするならば、どうだ? そうなったら俺は、オークのおーくさん、いや、奥さんからしたらただの殺戮者だ。殺したいほどに憎むだろう、俺を。


 勇者の姿も、魔王から見たら悪魔のように映ったのだろうか?


『魔王はさぁ、勇者と戦ったんだよね?』

『ワシは戦ったことは無いが、話だけは聞いておるぞ。珍妙な服装をしていたらしいの、詳しくは知らないのだが。どうした、気になるか? 魔王城に行けば、資料が残っているかもな。焚書されてなければ、の話だが』

『する理由ないだろ』

『どうかの』

『まぁ、いっか。どうせ、魔王城には行けないんだからな……』

『まぁ、そうじゃな。しかし、マイサンには取り戻してもらうぞ、城を』

「めんどくさいなぁ」

「ど、どうかされまして? 和人さま」

「あ、いや、なんでもないっす」


 ノウァちゃんと一度ハミルカル邸へ戻り、あのメイドさんを連れ出した。


「和人様、うちのアドラを頼みます」

 メイドの雇い主・バルカは、深々とお辞儀をする。

 あぁ、あのメイドさんはアドラって言うのか。

「アドラちゃん、もう大丈夫だぜ!」

「和人さま、こんな事までしていただいて、感謝の言葉もございません」

「気まぐれでやってるだけだぜ! 気にすんなぜ!」


「ノウァさま、和人さまって変わっていらっしゃるのですね」

「そうですわね、少し」

 聴こえてるんだよなぁ。


 温かい日差しの中、俺たちは勝ち誇ったように歩みを進めた。

 あのボロボロの家で寝ている弟に、メイドは自ら煎じたその薬を飲ませる。ゆっくりをその目を開き、姉を見つめる。メイドは、“ちょっと苦いね”とその弟に呟いた。

 これで回復をしてくれたら、俺も熱く暑いなかを草刈りに行った甲斐があったというもんだ。というより、回復してくれたら、それ自体が純粋に嬉しいよ。


「そうだ、この薬に名前を付けましょう」

「ナイスアイデアですわね。そうですわねぇ~……、そうだ! 魔王候補の和人さまのお陰で作れた煎じ薬なので、魔王湯(まおうとう)なんていかが?」

「ノウァさま、素晴らしいです。そうしましょう、魔王湯に決定で」

「俺、高校生だぞ。あと、俺だけの力じゃねぇし、半分が優しさで出来てるし」

「こうこうせい……? まぁでも、いいじゃないですの? 代表という事で、魔王湯で」

「ん、まぁいっか。じゃぁ、魔王湯でおなしゃす」


 メイドさんに“今日は弟さんに付いててあげて、バルカさんには俺から言っとくから”と伝え、俺とノウァは貧民街を後にした。向かうのは、というより戻るのは、ハミルカル邸だ。

 そう、先ほどもそこへメイドさんを迎えに行ったが、その時は裏口からこっそりと入った。なぜかって、あの4人組に気が付かれないようにである。面倒だったから。でも今度は、ちゃんと正門から入ろうと思う、面倒だけど。

 絶対、“あぁ!! 何日もふたりでどこ行ってたのぉ!? もう!!”って問い詰めてくるに決まっている。面倒だ。すっごく面倒だ。


「ただいまぁ~……っと」

「ああぁあああああああああああ!」

 丁度、玄関ホールへと降りてくる塩見リコが居たんだけど、“あぁああ”と発してすぐに階段を上がっていった。きっと、他の奴らに知らせに行ったに違いない。


 隠れよう。

「ノウァ、行くぞ!」

「は、はいっ!」

 ノウァの手を引いて屋敷の奥の奥へと向かい、物置部屋に2人で身を隠した。

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