第4話 そうですよね。
「んで、肉体を強化する魔法ってのは、どうやってやるの?」
少しの間を置いて、成神は話し出す。
「私の魔力は生まれながらにして高いのよ」
ため息交じりの一呼吸。
「でね――」
彼女は、自分の家系には高魔力の人間は存在しない、それなのに魔力の高い自分は狂っているのではないのか、と、か細い声で言った。
ちょっとした自虐風自慢かと思ったが、その顔は、先程とは打って変わって沈んでいた。
「少なくとも俺は、お前がどんな奴でもそばにいてやらんこともないぞ。で、どうやってやるの?」
そう言いつつ、飽くまでナチュラルに成神の頭にぽんっと軽く手をおいた。そのまま、髪の毛をかき乱す。
これは、まぁ、ちょっとした反乱である。
「さわんじゃねぇよ、オイ」
俺の手を払い除け、右ストレート。それは体重の乗った、左頬への素晴らしい返答だった。
「強化魔法かけるから、さっさと跪きなさい」
「学園に……ボクシング部あったの!? ねぇ!」
一瞬視線を俺に落とし、勢いよく魔法のステッキを向ける。その後すぐに目を閉じて、魔法を唱えた。
「汝に全てを与えよう」
顎が砕けてしまいそうな程に歯を食いしばり、発狂しないように身構える。
身構える……ものの、びっくりする程何も起きない。断末魔の叫びと共に爆発四散の無駄死によりはいいが、これではいけない。村人は救えない。爆発四散しなくても、結局俺も殺されてしまう。
「おい、何も起き――」
突如として何かが暴れ出したかのように強く心臓が鼓動を打ち、思わず倒れ込んだ。
成神に視線を戻す。
そこには池に落ちたボールを眺める子供のように俺を見つめる彼女がいた。
一応心配してくれているのかなぁ、などと逆に悠長に考えたりしてる。いよいよ死期が近いらしい。妹を見つける事も、村人を救う事も叶いそうにないのに死んでしまうとは、情けない。
「起きろー! カズト!!」
「あぁもう、うるさいな! 今起きる所!!」
朝目覚めるみたいに、極々自然に意識が引き戻された。あまりにも自然だったため、妹か母親に起こされた時のような反応をしてしまった。
よく寝たというわけでは無いが、身体が軽い。まるで生まれ変わったかのようだ。
「なにこれすごい」
「でしょ? 初めて成功したぁ」
安堵したように成神はその場に座り込んだ。
その愛らしい姿を見て、こんな状況なのに可愛いと思ってしまった。
「じゃ、早くモンスター倒してきなさい」
そうですよね、いつもの成神である。
え、初めて成功した……?