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第46話 鋼のように硬い意志で。

 この国の乾燥地帯には、ある鮮やかな黄色い花が咲いているという。渡された手書きのメモによれば、その花ってのがとても華奢で、一度(ひとたび)大きな嵐に遭遇したらその体はばらばらに引き裂かれて宙を舞いそうなほどであった。

 そんな弱々しい花にすがりつく俺もまた、ひどく弱々しい存在なんだと思う。

 でも、メイドさんの弟さんを救えるのなら、惨めな思いをしてもその花に頼ってやろうと思う。


 この国の乾燥地帯には、鮮やかな黄色い花が咲いている。それはとても小さくて、一度嵐に会えばその身体は引き裂かれ宙を舞う。それほどに彼は弱い存在なのだ。

 しかし、その小さな身体には大きな力が宿ってる。そして、その小さくて華奢な存在にすがりついている俺は、とても小さな存在なのかもしれない。


 “あの病気を治療するにはその草が必要”という事以外は俺には何も分からないが、それでも救えるかもしれないのなら、小さいと罵られようと、モンスターが多かろうとも、乾燥して肌がカサカサになろうとも、構いはしない。

 




 俺の薬草探しの手伝いをする事になったのは、ノウァ・バルカ。元将軍現領主のハミルカル氏の娘だ。

 彼女は胸囲的な意味でもビッグではなく、屈強な厚い胸板の兵士でもなかった。無論、ハミルカル氏を疑うワケではないのだが、とても今回の旅の役に立つとは思えない。なんか、含みのある笑いをハミルカル氏は見せたし、またあの時みたいに“種”だ“畑”だと何か裏があるのかもしれない。


 ただ、彼女は馬の乗り方が相当に上手かった。ギャグではない。

 俺は乗馬経験なんて無かったし、その点においては確かに彼女に助けられてはいる。しかし、華奢な身体だ、戦闘になっても役に立つのだろうか。

 まぁ、俺自身、あまり他人に言える立場ではないのだけど。



「えーっと、そろそろ馬休ませますわね。この子、よく頑張ってくれました」

 手綱を力強く引いて重心を後へと移しながら、俺に語りかける。

 馬もだが、お前も休まずによく頑張ってるよ。ありがとう、ふたりとも。

「ありがとうな、ノウァちゃん。でも、担いでるハルバードがちょっと当たって痛かったッス」

「す、すみません! あぁ、もう、私ったら……申し訳ないですの……」

「いや、違うんだ、ありがとうございました」

「えっ……?」

 “お前変態じゃぞ”

 “ビークワイエットぉ!”


 GPSは当然使えず……というより、携帯端末はずっと家に置きっぱなしだ。だから、移動距離は分からない。でも小休止を含めた平均速度を時速10キロ程度とすると、今日1日目の移動距離は7~80キロメートルといったところだろうか。馬には速度メーターやオドメーター付いてないしなぁ、かなり不正確であることは否めない。

 いや、付いてたら気持ち悪いだろ、なんかフランケンシュタイン博士の怪物みたいだもん。

 それは置いといて、とりあえずはまぁ少しずつではあるが、周囲の植生が変化しているようであった。植物そのものが減ってきた、かなり。でも、低いながらもまだまだ緑は多く、この馬の食事にもまだまだ困ることはなさそうである。


 そしていつの間にだか、空には満天の星が広がっていた。クリアなそれは無限に深い闇の様。それが頭上を覆うように存在しているのだ、美しいと思うと同時に恐怖感を覚えるのは当たり前なのだろう。


「綺麗だな」

「えっ、和人さま、そんな……急に」

「星空の事を言ってるんだけど! まぁ、間違いでもないけど」

「はぁ……そうですか……、えっ!? 間違いじゃない……!? あっ、いや、あの……そ、それはそうと、その、和人さまの生まれ故郷では星空が綺麗じゃないんですか?」

「う~ん、あんまり綺麗とは言えないかなぁ。町が明るすぎてね、空が霞んでいるようだったよ」

「星空が霞むほどに煌々とした灯り……ですか、いつか見てみたいですわ」

「いつか連れていってやるよ」

 戻れるのならば、ではある。

 今はその見通しすらきかない。深い闇の中のようであるが、この星空のように明るいものも見つけられた。


 火に焚く薪は、売る程にあった。それは細く燐寸(まっち)のようにすぐに燃え尽きてしまう。火の番が必要なのだ。故に、今はノウァがその勤めを怠ることなく遂行している。

 時折聴こえる、くべる音、薪の弾ける音が静寂を切り裂く。


「眠れ……ないですの?」

「うん、まぁ」

「こっち、来て」

 なんだろう。

 俺を呼び寄せ、彼女は膝をぽんと叩く。“ここ”とでも言いたいかのように。

「枕ないですものね、寝られないと思いますわ。し、仕方ないですわ、仕方ない。ここ、つ、つつ、つ……使ってよくてよ」

「えっ……えっ、えぇええ? いや、あの、それ、……まいっか、し、失礼シャス……シャーッス」

「ど、どうぞ、しゃぁぁす」


 眠れた。思いの外、ぐっすりと眠れた。

 最初はそう、興奮によって安眠は不可能であると思われたのだが、ところがどっこい! 何故かこのこの膝の上は落ち着いたのだ。どこか懐かしい匂いがする。

 “母の匂い”などというマザコンチックなモノではない。このノウァちゃんは獣人族だが、独特の匂いがあるのだ。

 俺はこの類の匂いを知っている。ノウァちゃんが臭いというわけではない、かすかに人や動物とは違う匂いがするのだ。でもドコで嗅いだのだろう……。


 学園での実習中?

 当然、化け物と対峙した事もあったが、相手は飽くまで幻術の類で変身したただの人間なのだ。というより、そもそも何か臭うなぁって感じた事などなかった。まぁ頑張っていたので、汗臭い事はあったが。


 もっとこう記憶の奥底……幼い頃のに嗅いだ、そんな気がするのだ。


「よく眠れたよ、ありがとう、ノウァちゃん。まだまだ朝までは時間があるから、今度は俺が膝枕してあげ……うっぁぁあああ俺恥ずかしいこと言ってる! 恥ずかしいこと言ってるよぉお……! いや、すまん、取り乱した。ちょっと考え事をしてたんだ」

 膝枕をしてやると言ってしまった手前、それを“やっぱ止めた”と言うのは余りにもかわいそうなので、ちょっとだけ後悔もしつつも遂行する事と相成りました。

 そして……。

「あの、ノウァちゃん……なんでこっち見てるの? 頭の方向逆ね」

「そ、そうなのですか、申し訳ないですわ」

「はあぁぁんグリグリしないでぇ! しし、ししゅ、思春期ィ……思春期ィィ! 真っ只中だからァァ!」

「あ、すみません、頭部の座りが悪くて……。なにか当たるんですよ、筋肉……ですかね。すごく鍛えられてるんですね、私、尊敬いたしますわ」

「うん、そうだね、筋肉だね! なんかごめん!」

「なんで謝られるんですの? 和人さまは努力をされててすばらしいって話をしてるんですのよ」


 大丈夫だった。何とは言わんが、何も起きなかった。ありがとうございました。


 俺も彼女と同じように、薪をくべる。

 肌寒いのもあるが、モンスター避けである。その火を絶やさず、朝までそれを繰り返した。

「おはようございます、ですの」

「ぐっもーにん!! よく眠れた?」

「はい、よく……眠れました。また、膝枕していただいてもよろしい……ですか?」

「枕無いからね、いくらでも俺を使いなさいな。ただし、頭グリグリするのは禁止な」


 筋肉がまた鍛えられちゃうからね。

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