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第37話 ハミちゃんは家族も同じだよ

 我々5人は、立派な邸宅までやってきた。領主様の邸宅である。最初はそいつに何をうるさく言われるのだろうと心配だった。そう、塩見、雨飾、芦尾の三人組が洋館を無断使用していた件で、である。しかし、開け放たれた門扉の先にいたのは、魔王候補養成ギルド代表のハミルカル・バルカであった。彼にはもう1つの肩書きがあったのだ、領主という。

 そしてその“領主様”の様子を見る限り、我々を攻め立てるような雰囲気は全く感じられなかった。そう、俺の心配はハズレ。全くの見当違いだった。


 それでも、今度は逆にハミルカルさんの事が心配になった。確かに、あの洋館を綺麗に利用してたとはいえ、無断使用してたことには変わりはない。本来は怒られて然るべきではあるので、“ちょっと領主としては甘くない?”と感じさせられた。まぁ、怒られないに越したことはないのだけど。

 それでももちろん、今回の件以外では領主としてしっかりと仕事をしているらしいハミちゃんなのだが、今日我々を呼び出した理由は、罰を与えるためではなく、村でのとある出来事に関するものであった。

 それは……、コロッケに関するモノ。


「えっ、コロッケですか?」

「はい、和人さま。和人さまが村長にお教えになったコロッケについてお話が」

「な、なに? ハミちゃんも作り方教えて欲しいの? いいよ、いくらでも教えてあげるぞ。まずはジャガイモをだな……」

「いえ、それはとても光栄なことなのですが、今回は違います。そのコロッケというモノ、どこでお知りになられたのですか?」

「どこで、って、いや、皆普通に知ってるよ、コロッケって定番の料理だもん。俺が生まれた国ではね」

 ハミルカル・バルカ氏は、恐ろしく厳粛な顔つきながらも喜びを湛え、ゆっくりと深く頷いた。


「なるほど、そうですか」

「うん、そうですね」

 そして彼が顔を上げると、先程再会した時よりも少しだけその顔が綻んで見えた。優しさや安心感を感じる顔である、家族、もしくは近しいものと再会したかのような。まぁ、残念ながら俺の親族や知人には魔族も獣人もいないのだが。妹は少し小悪魔的な部分もあったが、当然のことながら人間である。

「ちなみに、和人さまにご兄弟は?」

「妹がひとりいます。今はちょっと、行方が分からないんですが」


 そんな俺の妹・真彩は今どこにいるのだろう。情報もまるで入ってこないしどうしようも無いが、心のどこかでは常に妹の事を心配している。異世界に転移した際に到着する時間軸に違いが出ることも確認出来た。だから、当初は焦りに焦ったが、今では“どこかで生きているのでは。まだこの世界に飛んできてないのでは”と楽観できるようにもなった。楽観なのか、半ば諦めの境地なのか、正直わからない。ただ、そうしないと心が壊れてしまいそうだったのだ。

 自分の事しか考えていないのかなぁ。だとしたら、俺はちょっと最低だ。


「そう……ですか、これは大変失礼をいたしました」

「いやいや、いいよ。気にしないでよ、ハミちゃん」

 このごっこ遊びギルドの方々にも妹探しを手伝ってもらえたらいいのだけど、流石にそれは頼り過ぎなような気がして、結局は切り出せなかった。


「いえ……。ところで和人さま、そのコロッケなんですが、今、町ではちょっとしたブームなんですよ。東の地の果て、流浪の魔術師が持ち込んだ珍し過ぎ料理、と。それでですね、和人さま、やはり私の妻にもそのコロッケというモノを伝授しては頂けないでしょうか? 私の娘もコロッケ大好きなんですよ」

「うん! モチロンいいですよ、お安い御用だぜ!」

 東の地の果て、か。似ているな。


 “それではさっそく”とハミちゃんは、どこからか運んできた木箱入りのジャガイモを台所へと持っていく。しかもそれ、すっごい重そうなのに、肩に軽々と担いでいるのだ。さすが将軍、といったところか。一家に1人くらいはいてほしい、元将軍。しかも魔王軍の元将軍、ただしゴッコ遊び。でも領主。


「あぁ、こんなに出来たの! 全部は食べられないよぉ」

「成神、お前、全部食ったらさすがの俺も大激怒するからな」

 木箱いっぱいにジャガイモが入っていたのだが、その半分がコロッケになった。半分とはいっても相当な量であり、今現在、目の前のテーブルにはコロッケが山のように積まれている。彼女は“全部は食べられないよ”と言ったが、確かに全部は食べられないだろう。でも、5割ほどはその胃袋に収めることも彼女なら可能なのではないだろうか。

「しかしまぁ、作りすぎちゃったなぁ」

「ははは、そうですなぁ。あ、そうだ、和人さま、私の娘を呼んでもよろしいでしょうか? 一度本人が作ったコロッケが食べたいと言っておったので」

「え、いいよ。別に何の問題も無い」

「では。ノウァ、こっちに来なさい」

「はい、お父様」

 その声の主は貴賓室の扉が音をさせるともなく静かに、そして緩慢に、廊下との空気を僅かに入れ替える。そしてその声の主自身もまた、空気の流れと共に部屋へと入ってくる。転ばぬよう慎重に、床の軋みさえも聞こえぬよう緩やかに。そして、甘い香りと共に。

「はじめまして、和人さま。と……?」

「あ、はじめまして、和人です。えっと、こいつらはですね、クラスメイトです。友人みたいなものですね、テーブルのこちらから1人目が塩見リコ、2人目が成神久遠、3人目が芦尾志月。で、隣のこいつが雨飾千晴。で、こっちがハミちゃん、君のお父さん」

「あはははっ、変な方」

 ノウァが笑った瞬間、父親であるハミルカル氏の血の気がみるみるうちに引いて行くのが分かった。

 というか、別に何も彼女悪い事してないけど、ちょっと大げさ過ぎない?

「コ、コラ、ノウァ! 魔王様を変な方など、失礼だぞ!」

「ハミちゃん、ハミちゃん、いいよそんなこと」

「し、しかし」

「いいの。ハミちゃんの家族でしょ、じゃぁ、俺の家族も同じじゃん」

「寛大なるご処置、その言葉、ご温情痛み入ります」

 やっぱりちょっと大げさ過ぎない? このごっこ遊び、やっぱり気合入ってる! そんなハミちゃんを見てると、俺もちょっと本格的に魔王ごっこ楽しくなってきたかも。

 まぁ、ごっこではあるけど、“家族も同じ”は割りと本音だったりする。こちらでの生活を色々助けてくれてるからね。

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