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第33話 やったか?(やってない)

 放たれた水の球体から逃れるため、俺たちは森へと逃げ込んだ。そこで俺は転び、後ろより迫り来るのは激しい川音。もうダメか、そう思った瞬間、俺に襲い掛かったのは――。


 あの魚だった。それもかなり活きが良く、その尾びれを俺に大地に叩き付けている。興奮気味に、されど冷静に辺りを見渡すと、その光景が森に広がっていた。大量だ。いや、大漁か。とにかく、その量たるや呆れるほどのものであり、尾びれを叩きつける音は激しい川の流れのそれに聴こえる。そうだ、あの先ほどの川音の正体はこれだったのだ。

 このままこの魚たちを死なせてしまっては、非常に勿体無いし、自然に対し申し訳が立たない。こいつらを池に返すか、食材にするか……。考えるまでも無い、答えはひとつだ。資源保護の観点から特に活きの良い魚や一定以下のサイズの魚を池へと戻し、後は全てに干物の下処理をする。これしかあるまい。この魚を逃がすな、期を逃がすな。


 とりあえずはその条件の魚を逃がして残りの魚を確保しておけと、成神、塩見、芦尾に指示をした。その際、命令すんなって厳しい顔で塩見に言われてちょっと凹んだ。ツライ……。そして王笏を手に、雨飾と共にローブの少女の元へと向かう。

 森の景色が、足元の水音と共に素早く後方に流れゆく。大丈夫、今度は転ばないさ。次こそは俺が仕留める。そう心に誓い、大地を這う根を力強くジャンプで避けた。


 あと少し、あと少し。緑のトンネルが徐々に展開する。その先には、水かさを少し減らした池。それと、あいつが待っていた。

 その乳の大きい少女は俺たちの顔を見るなりまたあの不気味な笑みを浮かべ、そして余裕そうな声色で“まってたわぁ~ん”と言う。

 自らの薄い胸板と比べて殺意を抱いていた雨飾は、またもや明らかにイライラしている様子であった。

「なにが、わぁ~んよ。私のおっぱいでかくて素敵でしょって? ぼく、イライラする」

「雨飾、カルシウム足りてない? 絶対足りてないよね? 俺が揉んで大きくしてあげようか?」

「えっ、えっ!? いや、え、ちょ、ちょっと恥ずかしいけどお、おおお、お願いします」

 そこは“セクハラよ!”と叫びながら俺を殴って欲しかったのだが、そうはいかなかった。俺を殴ってくれれば、“ありがとうございますパワー”が充填される。それならば、きっとあのローブの少女を退ける事も容易かったろうに。

 勿論、半分ほどは冗談であるが。こうして自分を騙し続けなければ、俺は今すぐにでも逃げ出してしまうだろう。それほどに、恐ろしいオーラをまとう、重不法行使者のようなあの高位魔術師。

 先ほどは雨飾に任せた。が、それではやはりいけないだろう。情け無いのだろう。

 ちょっとアレを繰り返し言ってみたいですね、逃げちゃダメだって。


「雨飾、俺が行く。俺がやられそうになったら、全力でヤツを叩け。俺を巻き添えにしても構わねぇ」

「う……うん、分かった。気をつけて」

「ああ」

 彼女は心配そうに、俺を見送ってくれた。嬉しいけど、俺は大丈夫、心配ない。


 で、魔法なんだけど、ぶっちゃけ、イメージさえ固められれば、魔法の詠唱は発動のキーである魔法名だけでい。のだけれども、ここはちょっとカッコつけて詠唱みたいと思った。

 ゆっくりと歩き出し、詠唱を始めよう。

「混沌より生まれし王よ、自らはめしそのクビキより解き放たれ、我に従え!!」

「自らはめし……えっ、自ら!? というか和人くん、それなんの詠唱!?」


 ノリで勝手に詠唱をしてしまった故に、自分でも意味が分からない。まぁ、意味の無い詠唱なら特に問題も無いのだ。何か悪い事が起こるなんて、ありえない、意味など無いのだから。実際、こうしていても何も起きない。後は適当な魔法を――

「ほう、お主か。久しいのぉ、我が息子、マイサン。まいさんじゃないぞ、エム、ワイ、エス、オー、エヌ、マイサン」

「雨飾何か言ったー?」

「ん? 言ってないけど」

 突如として放たれた、“お主か”。それはとても低音で渋い声だったので、当然、雨飾が発したモノだとは思わなかったのだが、ここには俺と雨飾、そしてローブの少女しかいなかったので念のためたずねてみたのだ。そして、これまた念のため、あちらさんにもたずねてみようと思う。

「おーい、お前も何か言ったか~?」

「何も言ってないわぁ~ん」

「あ、そうですか」

 ですよね、あんな低音ボイスじゃないですもんね。


 幻聴かな!? 幻聴だったらどうしよう!

 俺は相当疲れてるのかもしれない。だから、なんとかこの戦いを早めに終え、干物の下処理をし、ある意味で温かい寝床でぐっすりと寝たい。泥のように眠りこけたい。

「ワシを揺り起こしたのはそなた……であろう?」

「どなた!?」

「ユアファーザー」

「ちょっと意味が分からない……」

「ミートゥ」

「そもそも、なんで英語なんですかね」

「それについてじゃが、お主、この世界に来て何か気が付かなかったのか? 周りの人間がニホンゴを使っていたじゃろう」

「あっ……あぁ! そういえば……。でもなんで」

「後々分かるじゃろうて、嫌でも……。そんじゃ、まぁ、呼ばれたことじゃし、お主……ユーにワシの全てを授けようぞ。正確には、力を行使する権利じゃ。修行せんと全ては使えぬぞ。励むがいい。シュンッ!」

 声が消えた次の瞬間、はめていた例の指輪が僅かに熱を帯びた気がした。というか、シュンッ、って自分で言って立ち去る人に初めて遭遇した。いや、人なのかどうか分からんうえに、姿形も分からない。それどころか、どこから声が聞こえて来たのかさえも、全く検討が付かない。

 でも、幻聴ではなさそうだしなぁ。


 しかしまぁ、なんだろ、この指輪の温かい感じ。気分までハイになりそうだぜ……。

「焼き尽くせ、フラム・フラマ……!」

 昼間の空をも紅く染める魔物が地を駆走る。触れた物を焼き、溶かし、蒸発させる。距離を取る俺でさえ、その放射熱でジリジリと肌を焼かれる。やがてその魔物は渦を巻く束となり、少女を飲み込んだ。


「やったか!?」

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