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第29話 モゴゴゴ

 塩見、雨飾、芦尾の3人組が俺たちの住処(すみか)に入り込んでいたのが、昨日の早朝だ。その日の朝食の最中、3人組のうちの1人である塩見リコの手が突如として止まった。そして目に涙を溜める。両隣の芦尾と雨飾も顔を伏せ、涙を堪えているように見えた。

 “おい、どうしたんだ?”と尋ねると、塩見リコは涙ながらに事の顛末を語り始める。

 結論から言おう、彼女たちをこの家に住まわせることになった。

 それというのも、本当に単純でアホらしいことなのだけど、あの洋館は正式に借り受けた物ではなかった。要するに不法占拠をしていたということになるのだが、当然と言えば当然の帰結で、あるひ突然訪れた役場の人間に退去勧告を受けたのだった。それも“ただちに”と、優しい口調ながらも高圧的に。怖かっただろうな、情けなかっただろうな。涙をすすり上げる彼女が可哀想に見える。しかし、完全に自業自得なわけで……。


 そうは言っても、放り出す事は絶対に出来ない。で、その“住まわせる”という結論に至ったのだ。勿論、条件付きだが。その条件とは……、“部屋を綺麗に使う”。まぁ、普通に生活していれば極端に汚れることもなかろう。事実、あのボロボロの洋館は綺麗に掃除をされ、それなりに住めるようにされていた。


 で、だ。この住処はこの村の村長のご厚意によって借り受けた物。なので、今日これから挨拶に向かうのだが、あの3人組がなかなか起きてこなかった。食事の匂いが家中に漂い、あぁ今日という日が始まるぞ、と細胞単位で活性化してゆくのを感じたが、彼女たちはまだまどろみの中にいるのだろう。

 仕方が無い、俺が起こしてやろう。


「おーい、起きろ~」

 暗転。意識が飛んでしまったかのように、場面は急激に変化する。昼夜の変化ではない、からっと乾燥した昼間の砂漠から、鬱蒼としたジャングルに迷い込んだ、そんな感じ。

 湿気を感じるし、なんかゴミが散乱してるような気がする。じゃなくて、してる。

「お、おま、まえら……」

「あ、おはよ~かずとくーん」

 真っ先に起床したのは、雨飾千晴。眠い目をこすりながら、部屋を後にする。


「おはよ~」

「おはようございます」

 続いて、塩見リコ、芦尾志月。


「ちょっと待ってお前ら、え、なにこの惨状? 一日でこんなに散らかる事あるの? あるんですか?」

「すみません、和人くん。リコちゃんがちょっと調子にのって買い食いして、パーティーしてたんですけど……そのまま寝ちゃって」

「う~ん、そっか。だから成神昨日部屋にいなかったのか。芦尾ちゃんは行っていいよ、朝ごはん食べてね。塩見、お前、まず掃除しろ。出来たらチェックするから、それから朝ごはん食べて良し」

「うぇ……」

「露骨に嫌そうな顔をしないの! もおおおお。手伝ってあげるから早く掃除!」

 まったく、世話の焼けるクラスメイトだ。こんなんじゃ、お嫁に行けないぞ。


 掃除って、大変だよね。まず窓を全開放して、大きいゴミをまとめ、高い場所から埃を落とす。結局その行為だけで20分ほど時間を失ってしまった。これでも、かなり急いだのだが。

「いやいや、すまんね、和人くんよ」

「はぁ……。次、次、散らかってたら怒るからね……。厚意で貸してもらってるんだから、絶対掃除しろよ、絶対だぞ」

「へーい。了解」

「うん、分かればいいんだよ、分かれば」

 “ホントに分かってるのかなぁ”って不安にはなるが、これから一緒に暮らしていくのだから少しは信用してやらんといけないだろう。だけども、念のため“絶対掃除しろよってのはほっ散らかさせる為の前フリじゃねぇぞ”とは伝えておいた。こいつなら、そういう愉快なことをやりかねない。


「おまえなぁ、ちょっと悪巧みしてるような顔するのやめろよ」

「なっ、失礼な! 生まれ付きだよ!」

 塩見の柔らかい頬の肉をつまみ、豪快に横へ。頬というよりは、つき立ての餅のようにそれは広がった。

「ンゴモオゴオ、モゴゴゴ! モゴンモゴオゴゴ!」

「ちょっと何言ってるのか分からない……。あぁ、ごめんごめん、つい引っ張っちゃった」

「リベンジしてくれるわぁああ」

「おい塩見やめモゴゴゴ」


 ちなみに、朝食は成神と雨飾が、俺たち2人の分を胃袋に納めていた。“いらないのかと思った”とのこと。平らげた2人は笑顔でそれを言い放つものだから、怒るに怒れなかった。


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