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第26話 何の肉だよ

 煙と共に、戦っていた成神久遠の表情も晴れるのだろうか。彼女は元々物静かな子ではあったが、今ではそれなりに明るい子だ。あの3人組のお陰である。それがまた、あの頃の少々暗い子に戻ってしまわないか、ちょっとだけ心配なのだ。また、心を閉ざしてしまわないか。

 迂闊だった。彼女に戦わせるべきではなかったのかもしれない。本当に迂闊だった。そして、心の底から情けなく感じる、この自分が。あの子に戦わせ、楽をした自分が。


 ごめんよ。ありがとう、本当にごめん。


 と、心配してたのだが、それとは裏腹に表情は笑顔……ではないにしろ、重く暗く雲が垂れ込めた様子はない。よかった、と考えてもいいのだろうか?


「成神、お疲れさま。何もかもやらせてごめんな。今日はお前の好きな物食べていいぞ。もちろん、好きなだけな」

「おお、いいね。和人もカラアゲ食べたいんでしょ? 私もカラアゲ食べたい。なんか分からない肉の……」

「あはは。一応、鳥類の肉だから安心しろ……たぶんな、おそらく、きっと」

「えぇ……ほんとに鳥のお肉なのぉ……?」

 鶏肉っぽいのは間違いないが、あまり深くは考えない方が幸せな事だって、この世の中には割かし沢山あるはずだ。例えば、鶏肉だと思っていたものがカエルのお肉だったり……。でもまぁ、一応、あのカラアゲは鳥の肉を使っているって事は、併設酒場(あそこ)の調理風景を見ていれば分かった。ただ、ニワトリであるかどうかは分からない。既に精肉された状態の物しか見たことはない。形はちゃんと、鳥であった。

 しかし、ここの甲虫を見る限り、その精肉前は何か分からない大き目の鳥類モンスターの可能性もあるが。ともかく、深くは考えない方がいい。それに、毒は無いのだから。何より、ニワトリよりも美味しいと感じさせる肉であった。現代世界とのトンネルが存在するならば、俺がこちらから輸出したいくらいである。


「まっ、美味しいからいっか! 和人くんも好きなお料理だもんね」

「だろ? 美味しけりゃいんだよ! 例えそれが醜いモンスターの肉であったとしても……」

「えぇ……うそでしょ? モンスターの肉なんかじゃないよね?」

「いや……これは、知らない方がいい……。世の中には知らない方が幸せな事だってある」

「えぇ、ちょっと、えぇ! なに、あれ、何の肉なの? ちょっと怖い、教えて!」

 あれは、醜いモンスターの肉などではない。安心せよ、成神久遠。だが、今はその真相を教えるつもりはさらさら無い。何故なら、不安そうなお前の表情がカワイイからだ。


「やだ、やだよ……。あの、豚さんっぽいモンスターじゃないよね? やだよ」

「安心してください、豚さんではありません。それに、食べても死にません。大丈夫です」

「大丈夫って。それが怖いの、大丈夫って言葉が怖いのよ」

 もっともである。“食べても死なない、大丈夫”なんて、見た目からして毒がありそうな物にしか使わない言葉だ。不安になるのも仕方が無い。


「あはぁ、ホント大丈夫だよ。安心しろ」

「わかったよう……。醜いモンスターだったら、和人くんはアストル・コリジョンの刑ね……」

「あれは止めろ、痛いの通り越して爆発四散しちゃうだろ。蘇生も出来ないどころか、棺おけに入るという最低限の弔いもしてもらえないだろぉおお!」


 お腹が空いたので、さっさと農場主に証明書を発行してもらい、総合案内所へ。

 既に日は傾いていたが、総合案内所……否、酒場は煌々とランプの明かりが噴き出して周囲さえも照らしていた。そして昼間にも増して、温かい喧騒が立ち昇っていた。

 まぁ、ほんと、うるさいし、まれに喧嘩も始まってはしまうのだけどそれも口喧嘩程度でけが人も出ないし、このうるささは異世界へと飛ばされた不安感を吹き飛ばすには十分すぎる風量があった。たまに、“これ食べなよ”と頼んでもいないのに料理が増えちゃったり。

 うるさいけど、そのうるさささえも温かい、心の帰る場所。あぁ、第二の心の帰る場所、である。第一は、2人で住んでるあのおウチ。現実世界の実家は、まぁ、実家。帰りたくないわけではないが、良くも悪くも、ただの実家。

 カウンターの最果てに着き、店員に“とりあえずカラアゲ”とオーダー。お酒は飲めないので、2人とも果実酢ドリンクを頼む。これがまた、甘酸っぱくて美味しい。本当はお酒で割る物らしいのだが、アルコール類が飲めない人の為にここでは水で割って出してもらうことも可能だ。

 うーん、親切!


「ごめんな、成神、今日はお前にばっかりやらせてしまった。ほんと、すまん」

「んん~、別に、大丈夫だよ。まぁ、あれよ、あれ。修行みたいなもの。私が苦手なのは豚さんのモンスターだけだから、虫なんて問題ないよ」

 洋灯(ランプ)に照らし出される笑顔は、すこしだけ疲労の色を見せていた。あの洞窟の魔法の明かりでは、はっきりと確認できなかったのだ。それが、この明るい酒場へとやってきて、明瞭に見られた。やはり無理させすぎた。


 凍える季節ではないにしろ、夜気に冷えた街は俺たちの距離を少しだけ縮めた。この暗い道を家まで向かうのはずいぶんと危険に感じたので、町で宿を借りる事になった。部屋は1つ、ベッドは2つ。極々普通の宿。

 ランプを消し、床に入る。しんと静まり返る部屋、遠くの喧騒。隣のベッドには、成神。寝顔は穏やかで、かき乱された心は平穏を取り戻した。よかった、いい寝顔だ。


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