第24話 ナチュラルにつよい
弾丸の如き成神。
その速度から放たれた一撃。
そいつは彼の外骨格を、これでもかと激しく揺さぶる。
金属音ではない、重苦しい音が、この大きな空間に反響した。それと同時に、成神の拳は彼の内部組織を完膚なきまでに破壊しつくす。
鎧とも呼べる外骨格。その節々からは体液があふれ出し、敵として対する俺でさえ不憫な気持ちにさせる。しかし、俺たちも生きていくために、こうするしかないのだ。依頼だから、というワケではなく、彼らがこれ以上繁殖したら人的被害だって出てくるかもしれない。
やられる前にやらなくては! 死んじゃったら何も出来ないですもの!
とりあえずは一匹退治完了、かな? もう動かないし、きっと死んでいるよね。
でも、まだ5匹もいるんです。彼らの動けない女王を含めれば、6匹にもなっちゃいます。
自分の仲間がやられたという焦りは、彼らは見せなかった。
それでも、確実に、背中合わせの俺たちを囲みつつあった。そいつらはまるで摺り足をする相撲レスラーのようで、ジリジリと間合いを詰めてくる。
馬鹿みたいに猪突猛進されるよりはマシだが、ゆっくり来られるのもそれはそれで嫌だ。だって、猛毒を水で薄めてそれで溺死するようなものだもの。
毒では死なない、でも、ゆっくりと、それでいて確実に死にゆく。そんな感じだ。
仲間がやられた焦りは見せず、彼らは背中合わせの俺たちを囲みつつあった。すり足をする相撲レスラーのように、ジリジリと間合いを詰めてくる。
気のせいだとは思うが、血走った赤い目をしているように見える。
照明魔法リュスィオールを使ってるとはいえ、薄暗いんで良くは見えないんですけどね。
「成神、お前、なかなかやるなぁ」
「いつもサンドバッグで鍛えてるからね。ばしーん、ばしーん、どん、どん、ばーん、ばしんばしん」
「ん? 何ソレ、サンドバッグってどういうこと? もしかして、常日頃殴られてる俺の事を言ってるのかな?」
「まぁ、そういう事になるのかなぁ」
「そっか……」
「うん」
まぁ、うん……、道端に落ちてる石ころよりは地位は高いのかな?
そう考えれば、サンドバッグなんて高級官僚みたいなモノだ。“人”と比べてはいけない、今は忘れよう。
「お前のそういう所、好きだぜ」
「えっ、えっ……? 今、ちょっ、えっ」
そういう、ふざけた事を気兼ねなく言う所が。
囲まれた事に焦りを感じたが、彼女の冗談がリラックスを与えてくれる。
一緒にいて落ち着くのも、好きな理由だったりする。
「ま、まま、いってきまーす!」
成神の足元が淡く光り、クラウチングスタートの体勢から一気に加速した。
先ほどのように、まるで弾丸のよう。
有り得ない程の急加速後、身体をひねりながらジャンプ。ふわりと花吹雪のように舞い、そこから繰り出されたのは見事なかかと落とし。
脳天にそれを落とされた虫はたまったものではない。
実際にはそんな事を思う暇もなく、その生命活動を止めたとは思うが。
恐ろしいな、彼女の拳も踵も。
続けざまに、攻撃態勢に入る。
瞬間、彼女の身体は光り輝いた。そう、魔法少女の変身バンクのように。
「いよっ、と。変身完了だよぉ。クラスの皆にはないしょ――」
「みんな知ってるから、余計なこといなバカッ!」
一息。
「激しく、機敏に、エギュ・アレルト!」
強化魔法の一種、だったかな。
エギュ・アレルトには筋力と機敏さをあげる効果がある。
ん? 待てよ、先ほど甲虫を2体ほど倒した成神さんだが、その時はこの身体強化魔法を唱えてなかったぞ。という事は、ナチュラルに巨大甲虫を殴り殺す力があるって事……なのか?
血の気が引いてく音がした。




